Healthcare Venture KNOT 2023、ゲストトークにトップバッターとして登場してくれたのは、スクラブ姿のしゅんPさん。持ちネタを贅沢に披露してくれた後はトークセッションへ。芸人と医師というハイブリッドな仕事の仕方をしているしゅんPさんならではの熱いメッセージが飛び出しました。
【HVK2023 コンテンツ1】
医師芸人に学ぶ医療者のキャリアの広げ方
芸人で医師のしゅんしゅんクリニックPさんをお招きし、お笑いにかける思いや医療者としての発信の仕方、芸人と医師というハイブリッドな生き方についてお話を伺います。
Healthcare Venture KNOT 2023
開催日時:11月18日 12:10~12:50
会場:コングレスクエア日本橋2
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所 presented by 東京ウェルネスインパクトファンド
【登壇者】しゅんしゅんクリニックP|アイドルグループ吉本坂46、医師
【司会】青木武士、石井洋介
「後悔したくない」と憧れのお笑い芸人の道へ
医師であり芸人のしゅんしゅんクリニックPこと、しゅんPさん。医師免許を取得し6年間の研修医生活を経て吉本興業の養成所(NSC東京校16期生)へ。「ちょっと特殊な経歴のピン芸人です」と自己紹介しました。
まずは一発医療ギャグの「シュッ!」をみんなで練習。会場の参加者と「痛み止めと言ったら?」「ロキソニン!」の声出し、「ヘイヘイドクター」などの持ちネタでダンスも披露。「一緒に踊りませんか?」という呼びかけには会場の3名から勢いよく手が挙がり、「みなさんアクティブですね~」としゅんPさんも嬉しそう。
会場があたたまった中、主催者の青木武士と石井洋介司会によるしゅんPさんとのトークセッションが始まりました。最初の質問は、ずばり「せっかく医師になったのになんで芸人になったの?」。
「群馬大学医学部時代に、お笑いにハマってしまったんです。M-1グランプリが始まったばかりのときで、群馬から東京に予選を見に行くほどハマりました。お笑い芸人って人を笑わせるし幸せな気持ちにすることができるじゃないですか。かっこいいな、養成所に入りたいなと思いながらも大学卒業時には勇気を出せないまま初期研修に入ったのですが、やっぱり後悔したくない、と思って27歳のときに養成所に入りました。とりあえずやってみて、ダメだったらフェードアウトしようと思っていましたね」(しゅんPさん)
「自分のやりたいこと」より周囲の声を参考にしたほうがウケた
医師のアルバイトをしながら芸人をやってきたしゅんPさん。現役で医師をしながら芸人になったことで苦労したことは?
「医者、というと、それだけで偉そうとか、堅苦しく見られることが多かったですね。コンビを組んで漫才をやっていた当時、自分は医者だとか言わずにネタを作っていたんですけど、やっぱりウケないんです。あるとき養成所の講師の先生に、27歳まで何やってたのって聞かれて、実は医学部に行ってて、と答えたら『なんでそれ言わないの!』って言われたんです。それを取り入れ始めたらちょっとウケるようになって」(しゅんPさん)
自分のやりたいこと、尖ったことをやりたいと思っていたけれどそれではウケない、そこで、アドバイスも取り入れながら医者のボケをネタに入れるとウケることがどんどん増えたといいます。
「YouTubeでもやりたいことをやると再生回数が伸びなくて、いただいたコメントを参考にして作ってみると再生回数が伸びたりするんですよね」(しゅんPさん)。
まず尖ったことをやりたいのは起業家も同じかもしれません。「でも、自分ってそんなに面白くないんだなと気づくときが来るんですよね。趣味だったダンスも、ネタに入れるつもりなんてなかったのに、漫才の最中に僕が全力で歌ったり踊ったりするとそこだけめっちゃウケるんですよ。ちょっと不服なんですけど(笑)、ピン芸人になったときに本格的に取り入れるようになって、今はバンバン踊ってます」(しゅんPさん)。
“炎上”から学んだ、発信方法のコツ
芸人として活動しながら、しゅんPさんは医療業界をどのように見ているのでしょう。
「Xで投稿される医療者の方が増えていますが、閉鎖的で頭でっかちな伝え方をされているのを見ると『それだとたぶん患者さんには伝わらないな』と思うことは正直あります」(しゅんPさん)
一方、自身が発信する際に、炎上してしまった経験もあるそう。「インスタでネタ動画を投稿したときに、不謹慎になってしまったことが何度かあって。とはいえ、みんな健康診断を受けよう、なんて当たり前のことを言っても面白くない。多少の毒がないとお笑いにならないので、その線引きには気を付けています」(しゅんPさん)。
あるとき、湘南の風の「純恋歌」の替え歌で「メス入れれば億千の金~一番もうかる仕事につく~」と歌ったら、「本当に失礼なので医者をやめてください」とDMが来た経験も。「自分としては『そんなこと思ってるわけないじゃん』という気持ちでやっていても、真面目に捉えてしまう方もいる。こういうのはダメだと学びました。そういうつもりじゃない、と真面目に返事をして、投稿はすぐ消しましたね」(しゅんPさん)。
SNSで発信するときには「全員が同じ受け取り方をするわけではない」ということを肝に銘じて、「♯全員が全員そうではないですよ」などとハッシュタグをつけることにしているといいます。
エンタメと医療情報をミックスさせて情報発信するときに意識していることは?
「患者さんをバカにするようなことは絶対しないこと。僕は医者という立場でやっていますが、医者はただ医者であるだけで偉そうに映ってしまいます。相手が看護師さんであれ患者さんであれ、最終的に医者が負ける、医者が怒られて終わる、という構図にしています。あと、論文などの内容を発信するときには間違いがあると指摘されてしまうので、厚労省や学会のサイトの情報をかなり読み込んでいます」(しゅんPさん)。
ハイブリッドには唯一無二の面白さがある!
しゅんPさんは医師、芸人という2つの仕事を並行させています。医療者で起業したり、違う業界にチャレンジを試みている人たちに伝えたいことは?
「僕自身は、とりあえずやってみる、もしダメならダメでいいじゃん、というスタンスで今までやってきましたが、結局積み重ねしかないなと感じています。医師でもあり芸人でもある、ギターやダンスに手を出してきた、僕の場合、そういうことが結局全部、活きています。芸人って、自分の弱いところが面白さに変わったりするんですよ。自分が弱みや短所だと思っていたことが意外と面白がられる、ということは業界を問わずあると思います」(しゅんPさん)。
医師、芸人、2つがどっちつかずになるという考えもあるけれど……。「ハイブリッドって、唯一無二の、その人にしかできないやり方だと思います。もちろん、一つのことを極めている人もすごいけれど、それに匹敵するぐらい面白いですよ」(しゅんPさん)。
しゅんPさんは学会や勉強会の座長や司会を頼まれることもあるそう。「芸人やっていなかったら絶対行けていないし、繋がっていないだろうなという方々と知り合えるのもハイブリッドならではですよね」としゅんPさん。
新たなチャレンジには失敗はつきもの。そのためにしゅんPさんは「すべった後のフォローをいつも用意しておく」といいます。「例えば現場でネタがすべったら、僕の場合は『救急車呼んでください』『お医者さんいませんかー?』『(会場に聴診器を向けて)会場、死んでます?』とか何個か用意しています(笑)。そういうのを作っておくと気持ちを保ちやすいですよ」(しゅんPさん)。
「失敗を恐れず、すべり倒すこと」というしゅんPさんのメッセージは、新分野を切り開こうとする起業家たちにストレートに伝わったのではないでしょうか。
「面白かったね」という声が会場のあちこちから聞こえてきました。
Text:柳本 操