いよいよ本番!「Knot Program 2023」参加起業家5名のピッチコンテスト開催報告

  1. HVK2023

2023年11月18日、キャピタルメディカ・ベンチャーズとおうちの診療所は『Healthcare Venture KNOT 2023』を開催しました。6回目となる本イベントは、「医療者とヘルスケアスタートアップを結ぶ」をコンセプトに、医療現場(医療・介護職)とビジネスサイドの考え方や思いを相互に学び合う場を提供し、真の現場ニーズに即したヘルスケアビジネスを創造することを目的として進めています。

今年のテーマは「ヘルスケア領域における社会インパクト創出」。豪華ゲストを迎えたトークセッションや、インパクト起業家育成プログラム「Knot Program 2023」に参加した5名の起業家によるピッチコンテストを行いました。さらに、初の試みとなるコミュニケーション会場には3つの屋台が設置され、参加者はドリンクを片手にさまざまな領域の人々と交流し、親睦を深めました。

本記事では、ピッチコンテストの様子をお伝えします。5名の起業家が、本番に向けて7カ月をかけて練りに練ったビジネスプランを発表します。


「Knot Program 2023」インパクトスタートアップ・ピッチコンテスト

この日のために7カ月間、それぞれのテーマを掘り下げ、磨き上げてきた5名の起業家たちによるビジネスピッチ、本番です。個性あふれる起業家が7分間で熱い思いを伝え、審査員からも鋭い質問が。満席の会場は熱気に包まれました。

【コンテスト登壇者(敬称略)】

1. 「まちを再生する訪問看護」
  深澤 裕之(Nurse and Craft株式会社 代表取締役)
2. 「メディカルツーリズムによる地方医療の再生支援サービス」
  近藤 奈央(すずな代表)
3. 「同じ境遇を持つ仲間と体系的な学びを共有するオンライン道場『zenow(ゼノウ)』」
  叶 卓史(株式会社norths 代表取締役)
4. 「世界初のうつ病アプリの開発」
  田中 圭(株式会社セラピア 代表取締役)
5. 「高齢者施設での看取りを推進する『みとring』」
  川﨑 淳子(株式会社flagMe COO)

【審査員(敬称略)】

・黄 春梅(ほぁん ちゅんめい)|新生企業投資株式会社 マネージングディレクター/新生インパクト投資株式会社 代表取締役
・田淵 良敬|株式会社Zebras and Company 共同創業者 / 代表取締役
・中村 多伽|株式会社taliki代表取締役CEO / talikiファンド代表パートナー
・山中 礼二|KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー/グロービス経営大学院 教員
・秦 雅弘|GLIN Impact Capital 代表パートナー


5月の合宿から始まり、通算6回に渡って定例会を重ね、ビジネスプランとピッチ内容を磨き上げてきた5名の起業家たち。いよいよピッチコンテストの本番です。登壇者と審査員一同がステージに集結し、会場の熱気は最高潮に。

今回のピッチの審査方法は以下の通り。

1.課題の解像度の明瞭さ
2.課題に対するサービスやプロダクトのフィット感、適切さ
3.儲かりそうか(持続的にサービスを提供し続けられる仕組みがあるか)
4.生み出すアウトカムやインパクトの確からしさ(有用さ、意義の意味の深さ、社会をより良くするのか)
5.スペシャルポイント(各審査員が投資検討時に見ている独自基準)

登壇者に与えられ得た時間は7分間。終了後に審査員との質疑応答が行われます。

1. 「まちを再生する訪問看護」 深澤 裕之(Nurse and Craft株式会社 代表取締役

トップバッターを務めた深澤 裕之氏は、2019年に広島県呉市の、人口約1700人、高齢化率70%の大崎下島で起業。現在、地域コミュニティ再生を目的とした訪問看護と健康支援、医療者ツーリズムモデルの開発を進めています。

「私が起業した当時、地域コミュニティは崩壊し、住民の方は未来をあきらめていました。でもみなさんはその不安を離れて暮らす家族には話さないのです。きれいな海があり、生活コストも低いこの地を、人が再び集まる場所として復活させたい」と思いを訴えます。

深澤氏は、訪問看護、スマートウォッチを活用する高齢者向けヘルスケア、そして医療職を対象とするヘルスツーリズムを2019年から展開。医療介護関係者や看護学生など年間200人以上がこの地域に関わっている、という実績を示します。「シェアハウスなどやりたいことから始めるケースは地域から応援されにくいが、地域の課題解決から入るとうまくいく」(深澤氏)。この取り組みを広げて、日本を「明日が楽しみになる社会にしたい」と締めくくりました。


〈質疑応答〉

――どのようなサポートがあると課題解決を加速できると考えているか?

「我々独自でも展開は可能ですが、自治体も高齢者の健康維持増進において答えが見つからない状況にあります。自治体とのマッチングも想定し、現在高知県で話を進めています」

――介護人材の増やし方についてこのモデルならではのポイントはあるか?

介護人材に対しては、看護師をやりながらヘルスツーリズムをやっていただくなどパラレルワークという提案を行い募集をするとあっという間に揃ってきている状況なので、今後も可能だと考えています」


2. 「メディカルツーリズムによる地方医療の再生支援サービス」 近藤奈央(すずな代表)

2人目は、メディカルツーリズムによる地方医療の再生支援サービスを開発中の近藤 奈央氏。

製薬会社の営業として沖縄で4年、福岡で4年の営業経験を持つ近藤氏は「地域病院が抱える赤字問題を外貨を稼ぐことによって解決し、住民と働き手、相互にとって幸せな医療体制を整えます」とアピールしました。

鍵となるのがインバウンド需要を呼び込むメディカルツーリズム。「PETやCTといった画像診断用の高度医療機器は世界でもトップクラスに備える一方で、稼働率が悪いのが日本の実状。特に地方では顕著な傾向となっています。一方、中国ではさまざまな医療課題があり、そのひとつとして治療の先送りが起きています」(近藤氏)。

メディカルツーリズムのサービスには既に多くの企業が参入しているものの、「受け入れ医療機関側は、経営が苦しい中で新しいことができない。オペレーションへの不安を抱えています。そこの医療機関側の支援を引き受けます」(近藤氏)。

メディカルツーリズム市場が活性化する今こそ、地方の観光資源と医療資源をつなぐBPOから開始し、医療機関側の支援に伴走することにより市場を狙っていく。「このサービスは日本全国の地方、医療機関の未来を作るサービスです」と力強く宣言しました。


〈質疑応答〉

――地域経済の活性化について、病院へのアプローチ以外できること、働きかけたりしていることはあるか?

「現在、医療機関に営業をしていますが、医療機関は施設ごとに独立している傾向が強い。だからこそ医療機関の外側にいる自分の立場を活かして地域のコミュニティのつなぎ役になり、地域企業、他産業とのコラボーレーションなどで新たな地域の魅力を創出を支援していきたいと考えています」

――BPOにおいて業務の効率化をどのように行おうと考えているか?

「効率化というところまでは行き着いていないのが現状ですが、ただ病院に『モノがあるから入れてください』だけでは不可能であり、導入できる環境をどれだけ現場目線に立って入れ込んでいくかが最重要ということは営業経験で痛感しています。現場に入り込み、どこに課題があるかを抽出した上でそれぞれの立場を理解したオペレーションを整備することで、より精度の高い再現性を担保していきたいと思っています」


3. 「同じ境遇を持つ仲間と体系的な学びを共有するオンライン道場『zenow(ゼノウ)』」 叶卓史(株式会社norths 代表取締役

3人目は、中高生のスポーツ選手を対象に、目標設定をサポートする支援アプリを構築する叶 卓史氏。野球指導者として活動する中で、「うまくいく選手とうまくいかない選手の違い」について考えた結果、「望む結果への最大の近道は過程を楽しめる人はうまくいく」と気づいたと言います。課題と感じているのは、「ネットやSNSで情報を仕入れるものの、膨大な情報に振り回され、何がいいのか分からず思考停止してしまう選手が多い」こと。

そこで叶氏が作成しているプロダクトが「オンライン道場 zenow(ゼノウ)」というアプリ。最初から体系化された情報を受け取ることができれば断片的な情報に振り回されない、さらに、複数人で協同学習をすることによりロールモデルが見つかり、自分に合ったやり方を見つけやすくなる、と叶氏は伝えます。「実際に、普段教えている選手にアプリを使ってもらったところ、指導内容の解像度が上がり、日々の練習のやる気が上がったという声をもらいました。これからも検証を続けます」(叶氏)。

自らの強みを「スポーツの理論を言語化できること」という叶氏。言語化が得意ではない指導者のコンサルに入り、ともにプログラムを作る取り組みも開始する予定とのこと。「英雄伝を学ぶよりも、100人の凡人が経験した失敗談のほうがヒントに満ちている」「意欲を高め、いろいろなものに挑戦するようになり、人生の充実度が上がっていくことをゴールに見据えている」と、ビジネスモデルの核となる理念を明解に説明しました。最後に「我々のビジョンは、諦めない社会、進みやすい社会です」とアピールしました。


〈質疑応答〉

――まずはスポーツの世界で始めていると思うが、次にどのような領域で進めることを考えているか、時間軸とともに教えてほしい。

「事業の進め方として、最初の3年はスポーツ分野で、グローバルに行けるぐらい深めていきたいです。その後にファッションや音楽など文化系へ。プログラミングはさほど変わらないので、違う領域も進めていけると考えています」

――世の中に出たときに模倣されやすい可能性があるが、長期的にどのように強みを残していくか。また、月3000円という料金設定を決めた材料について知りたい

「通常、パーソナルトレーニング領域は月額1~3万円ほどで、私の場合は社会人では5000円、大学生以下では3000円という低い価格設定で指導しています。提供相手を考え、ある意味スタディサプリのような方向性で攻めていこうと考えていて、それほど高くはない設定では、と思っています」


4. 「世界初のうつ病予防アプリの開発」 田中 圭(株式会社セラピア 代表取締役

4人目に登場したのは、現在、国内で潜在患者数500万人とされるうつ病の「予防アプリ」開発に取り組む、田中 圭氏。製薬会社で抗うつ薬の治療薬開発、治験プロジェクトリーダー、ITプロダクト開発といった経験を重ねたことをベースに、「世界初のうつ病の予防効果証明、薬事承認」を目指します。

抗うつ薬の治療薬開発に携わっていたとき、医療現場を見て「なんとかしたい」という問題意識を持っていたという田中さん。2014年の薬機法改正によりソフトウェアが医療機器として認められるように。すでにニコチン依存症、高血圧において、アプリが治療目的として薬事承認を得ていますが、「予防を目的としたアプリの薬事承認はいまだ1つもありません」(田中氏)。

そこで田中氏は、うつ病ハイリスク群である「経営者」をターゲットに、エンタメ性の高い経営者専用のログSNS「みんなの社長ノート」を開発し、入り口を用意。さらにうつ病予防の手法としてエビデンスのある「認知行動療法」をアプリのコア機能とし、治験で効果を証明することによって薬事承認取得をねらいます。

「アプリによりうつ予防の有効性が示されても、継続使用ができないと意味がありません」と田中氏。そこで、閉じられたSNS機能によって、境遇が近いゆえの共感、リアルタイムの共感を生み出すことで継続性を高める、というプロトタイプを作り、検証を行っています。

うつ病から始め、他の疾患にも活用を広げ、海外展開することによって売り上げを大きく伸ばしていく。アプリによる疾患予防が当たり前の社会を実現する。「予防のプロダクトにおける薬事承認取得に必要な専門性を持っている人材は、おそらく世界で自分だけだと思っています」という言葉が力強く響きました。


〈質疑応答〉

――認知行動療法に基づいたウェブサービスやオンラインカウンセリングなど既存のものはあるものの、なぜうつ病の人がいなくならないのか、どう捉えていらっしゃいますか?

「認知行動療法を受けて治療予防ができている方ももちろんいらっしゃると思いますが、技術力や治療者の能力の差など、均一性がないゆえかなと思います。アプリ化することで均一性を作ることができるので、成功率を高められる可能性があります」

――因果関係を証明しにくい分野であるかと思いますが、治験におけるアカデミアとの連携について計画はありますか。

「前職のときに全国的に著名な精神科病院の院長に、アプリを作るのでそのときには力を貸してくださいと伝えており、現在打診をしています。病院の先生とタッグを組んで治験を重ねていきたいと思います」

5.「高齢者施設での看取りを推進する『シェアMedi』」 川﨑淳子(株式会社flagMe COO

トリをつとめたのは、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と高齢者施設における医療対応を代行するソリューション「みとring」を開発する川﨑 淳子氏。川﨑氏は、医療から介護業界に転身し17年目、現在、福岡県で現役ケアマネジャーとして活動しています。

冒頭で、「高齢者施設で日常的に起きている悲劇」について克明に表現をした川﨑氏。

「誰も望まない救急搬送と延命措置、家族の悲しみがなぜ起こるか、看取りのキモになるのはコミュニケーションではないでしょうか」と訴えます。

厚生労働省の統計によると2030年には約47万人が「看取り難民」になると推計されているにも関わらず、病院のベッド数が増える予定はなく、増える死亡者をどこで看取るのか。「自宅もしくは高齢者施設となりますが、地域はリソース不足で自宅で看取るのは到底不可能です。そこを救うのは高齢者施設でしかないのです」と川﨑氏。

川﨑氏が64施設にヒアリングした結果、高齢者施設では「そもそも入居者の意向がわからない、医療リソースが足りない」こと、また、施設間比較をした結果、「ACPを行っていた施設では看取り数は圧倒的に多く、搬送数は少なく、ベッド稼働率はほぼ100%だった」というデータを示しました。

「みとring」では、本人の病状に合わせて意向を聞き、家族、施設と共有する人生サービスのサポートとともに、急に具合が悪くなったときに医療対応する有事の医療サポートの2軸のサービスを提供。顧客は高齢者施設で、価格は入居者1人あたり月2000円に設定。高齢者施設は導入によって入院による空床を減らすことができ、看取り介護加算を算定(2024年度の報酬改定により看取り介護加算総説、施設における緩和医療の算定可への動きがある)できることによる「儲かる経営」にシフトできる、というプランを提案しました。

川﨑氏は最後に「まず福岡50施設からスタートし、2025年には九州エリア、2028年に全国の3%をとれば、2200施設で27億円の売り上げが見込めます。私たちは看取り難民の問題を解決し、ACPによって誰もが長寿を心から喜べる世の中を目指します」とまとめました。


〈質疑応答〉

――医療サポートの方法について具体的に教えていただけますか?

「当社の看護師が24時間体制でオンコールで待機し、施設からのSOSコールに応えることによって約90%解決できると踏んでいます。エキスパートも育成しています。ただどうしても補えない10%が出てきますので、当社の医師、あるいは各地域の訪問看護ステーションとの連携で現場に駆けつける、ということで、介護スタッフの負担軽減、適切な医療判断を行おうと考えています」

――介護施設はコストをシビアに見ると思います。契約が決まった施設はサービス全体のどこに価値を感じ、導入を決められたのでしょうか。また、今後の営業はどのように展開していかれますか?

「施設さんが何をメリットとしているかを聞いたところ、私たちは看取りのところにフォーカスしていたのですが、施設側は介護スタッフの負担軽減のほうに価値を置いておられるようです。現在、営業先としてヒアリングした64施設はかなり手応えを感じています。実装しエビデンスを積み上げて、最終的には行政とタッグを組んで、田舎を元気にしていきたいと思っています」

個性豊かな5名の起業家のピッチ内容、さらにピッチの後の審査員との質疑応答によって、それぞれが目指す景色の解像度がさらに高まりました。いずれのプランも「早く実装されてほしい!」と思えるものばかり。このあと、審査員たちによる活発な議論が行われ、1時間後の結果発表・表彰式へと続きます。

表彰式

すべてのコンテンツが終了後、5名の起業家と審査員は舞台の上に参集しました。起業家にとっては、緊張の時が流れます。


そして、司会の青木氏により結果が発表されます。「結果、発表〜・・・」


Healthcare Venture KNOT 2023 インパクトスタートアップ・ピッチコンテストの最優秀賞は、ACPと医療対応を代行するソリューション「みとring」を開発する川﨑 淳子氏に決定しました。


5名の審査員から川﨑氏、そしてすべての登壇起業家に熱いメッセージが送られました。


今回は残念ながら受賞を逃した4名の起業家の発表も、深い現場の課題認識とこれを解決するビジネスプランばかりで、審査員の頭を悩ませたそうです。「Knot Programでの学びや本ピッチコンテストでの経験を糧に、さらなるステージへと上がっていってほしい」と司会よりエールが送られ、イベントの幕が下ろされました。

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Text:柳本 操