【第4回 Knot Program】インパクト起業家必須のアウトカム評価とリターンを最大化させるためのスタートアップマーケティング

  1. Knot program

2023年8月8日、実践型のインパクト起業家育成プログラム「Knot program(ノットプログラム)」の第4回定例会が開催されました。藤本修平さん(静岡社会健康医学大学院大学 准教授)、本田 克徳さん(株式会社ユカリア デジタル事業本部 マネージャー)の2名を講師に迎え、5組の起業家チームは、「ヘルスケアサービスのアウトカム評価」や「インパクトスタートアップのためのマーケティング」について学びを深めました。本記事では、第4回定例会での課題発表や講義の様子をお伝えします。


【イベント概要】

インパクト起業家育成プログラム「Knot Program」第4回定例会

主催:株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所 Presented by 東京ウェルネスインパクトファンド

日程2023年8月8日(火)19:00〜20:30
開催場所オンライン
内容課題発表:テーマ「ヘルスケアサービスのアウトカム評価」
講義:テーマ「インパクトスタートアップのためのマーケティング」
参加者<起業家> ※敬称略、順不同
1) 深澤裕之(Nurse and Craft合同会社 代表社員)
2) 叶卓史(株式会社norths CEO)
3) 川﨑淳子(株式会社 flagMe COO)
4) 近藤奈央 / 三野宏之
5) 田中圭(株式会社セラピア 代表取締役)

<講師>
藤本修平(静岡社会健康医学大学院大学(静岡SPH)准教授)
本田克徳(株式会社ユカリア デジタル事業本部 マネージャー)

<メンター / スタッフ>
青木武士(キャピタルメディカ・ベンチャーズ) 
後町陽子(キャピタルメディカ・ベンチャーズ)
河村由実子(キャピタルメディカ・ベンチャーズ) 
石井洋介(おうちの診療所)
甲 浩子(おうちの診療所)
横田達之(おうちの診療所)
和田誠一郎(マネックスベンチャーズ)


【講師紹介】

藤本修平氏(静岡社会健康医学大学院大学(静岡SPH)准教授)

スタートアップ、総合商社グループでヘルスケア関連のアプリ・店舗・AIの開発責任者を歴任。研究分野は、ヘルスケアビジネスのマーケティングリサーチ、ロジックモデル評価など。


本田克徳氏(株式会社ユカリア デジタル事業本部 マネージャー

<略歴>
・ソフトバンク株式会社(コールセンターの戦略設計と業務プロセス改善)
・株式会社リヴァンプ(主にリテールセクターの経営改革、CRM・販促マーケティング支援)
・株式会社エス・エム・エス(介護事業者向け事業のマーケティング責任者)
・オイシックス・ラ・大地株式会社(経営企画責任者・PMI・上場市場指定替え)
ほか


【タイムライン】

19:00〜19:05    イントロ / 講師紹介
19:05〜19:40    課題発表+質疑応答「ヘルスケアサービスのアウトカム評価:自社事業のアウトカム・その尺度を決める」
         講師:藤本修平氏
19:45〜20:15    講義「インパクトスタートアップのためのマーケティング」
         講師:本田克徳氏
20:15〜20:30    質疑応答・クロージング


【課題発表】

定例会の前半は、5組の起業家チームによる以下の課題発表からスタートしました。課題は、第3回(7月18日)の講義終了後に講師の藤本さんから出題されたものです。

課題:「自社事業のアウトカム・その尺度を決める以下の観点を含めて、3分で説明してください。
・事業の最終/長期アウトカムを1つ設定し、測定する尺度を決めてください
・初期アウトカムを1つ設定し、最終/長期アウトカムとの関連性を理論的根拠とともに説明してください

5組の起業家チームはロジックモデルとアウトカム指標を作成したことにより、各々の事業プランがぐっと磨かれた印象でした。藤本さんは、発表の中の発言一つひとつに問いを投げかけ、言葉の裏側にある思いを引き出します。フィードバックの中で代表的なものは、「アウトプットとアウトカムの混同への指摘」、「定性(アウトカム)と定量(その尺度)を行ったり来たりして事業プランの解像度を上げていくことの重要さ」でした。今回の課題を通して、頭ではわかっていても実際に事業プランに落とし込むことは難しいということを参加者は実感したようでした。




【講義:インパクトスタートアップのためのマーケティング】

定例会後半は講義パートです。講師の本田克徳さんは、ヘルスケア業界を始めさまざまな業界でマーケティングマネージャーとして活躍されてきました。今回は、インパクトスタートアップにとって大切なマーケティングについて、詳しくお話いただきました。

マーケティングは「投資活動」と捉えよ

本田さんは、スタートアップが重視すべきマーケティングの定義を「顧客に費用をかけてProduct/Communicationを届け、対価として売上を得るための投資活動」だと説明しています。

スタートアップ、特にシード期のスタートアップは、誰に、何を、どのように提供するのかを考え続けること、そして、インパクトを生み出すためには顧客との対話も大切です。顧客とのコミュニケーションにおいては、「3つのM=Market(顧客セグメンテーション)、Media(Media×購買プロセス)、Message(訴求する価値)」で整理することが有用です。


製品を「誰」に提供するかーーMarket(顧客セグメンテーション)

たとえば、介護業界におけるサービス事業者を顧客と捉える場合、ひとことで「顧客」と言っても、売上規模や事業業態などによって顧客ニーズが異なります。対象とするマーケット(顧客)は何か、その顧客をどのようにセグメンテーションするのかが最も重要です。

たとえば、縦軸に顧客の経営状況、横軸に顧客の事業業態の二軸を取ります。切り取ったマーケット(顧客)のそれぞれの事情の違いに注目しながら、提供価値(WHAT)とその伝え方(HOW)を設計していきます。実際にはこの二軸をどう設定するかが難しく、定量データの分析や特にインタビューなどを通した顧客の生態理解(定性)が鍵となります。本田さん自身もかなり試行錯誤を重ねた結果、有効な軸にたどり着いたといいます。

製品の価値を購買プロセスの「どこ」で伝えるかーーMedia

製品やサービスを”誰”に提供するかを決めたら、その顧客がどの購買プロセスにいるかを理解し、その心理状態を考察してMediaを選定します。

ここでは、AIDA(認知→興味→欲しい→購買に分類した顧客の心理)を使った事例が紹介されました。

たとえば、顧客がサービスを認知していないプロセスにいる場合、顧客の購買心理を考えると、顧客の潜在ニーズを広く捉えたキーワード施策や認知を促すための媒体広告の選定などを行う必要があります。一方でサービスを認知し、興味を持っている顧客には、個別のターゲティングや顕在化されたキーワードでリーチしていくのが有効です。

また、すでに「サービスを使ってみたい」というプロセスにまで進んでいる顧客には、ブランド名やサービス名でリーチさせる必要があります。

スタートアップのようなリソースに制限がある事業には、すでに「購買プロセスが進んでいる=購買意欲が高い」顧客からアプローチすると、購買に至るまでの費用=顧客獲得単価(CPA)を抑えることにつながります。



製品の価値を「どのように」伝えるかーーMessage

伝えるべきメッセージは顧客セグメントやMedia(購買プロセス)によって異なるので、それに応じてカスタマイズし、PDCAを回していくことが重要です。

デイサービスの事例でいうと、経営状態が黒字で業務効率や採用に課題を持っているセグメントには、「DXを推進するソフトウェアによる業務効率化」という具体的なソリューションが刺さるかもしれません。そのセグメントの購買プロセスが認知段階にいる場合は、そのサービスが経営にとって、どんな価値を生み出すのかという概要を伝えることが必要とされます。その他、既に認知があるのであれば比較検討ができるようなより具体的な内容が、さらにそのサービスを欲しいという状態にあるのであれば具体的なオファーが求められます。

メッセージを届けたい顧客セグメントとその購買心理によって、伝えるべきメッセージを吟味していくことが重要です。



生み出す利益を最大化させるマーケティング思考行動の習得を

最後にテイクホームメッセージとして、マーケティングを投資活動として捉え、「どのMarketに、どのMediaを使って、どんなMessageを届けるために、どれくらい投資するか」その実践と検証を繰り返し、生み出す利益を最大化させることの重要性が強調されました。

出口として事業収益を獲得するためには、いま何をすべきかという「出口から思考する」考え方で業務を設計する必要があります。また、投下するコストが不明確で今やっていることそのものが目的になってしまうこと、思うような結果が出なかった時に外部要因などの言い訳ができる環境を作らないようにすることが重要です。

スタートアップにとって、”顧客の肌感”を掴んでおくことは事業成長に欠かせないものであるため、インパクトスタートアップにとってマーケティングは非常に重要な事業活動であることが力強く伝えられ、講義は締めくくられました。



【まとめ】

講義を受け、参加者からは、以下のような質問やコメントが飛び交いました。

ー顧客セグメントは、できあがったものを見ると簡単に作られたように見えるのですが、実際かかった工数やどのような人が関わったのかとても気になる

ー顧客の課題を分類した上で自分たちが届けたいサービスの役割を深く理解するには、ペルソナの細かい設定が必要だとわかった

ー価値の設計の仕方はさまざまあると思いますが、ヘルスケアだからこそよくある設計の仕方や特性があるのか知りたい

ー顧客獲得単価について、VC面談ですごく聞かれたけど全然上手く答えられなかったので、もっと解像度を上げたい


双方向性の講義により、見落としていた課題や足りない視点などが明らかにできたようでした。生み出す利益を最大化させるマーケティングの考え方を活かして、今後、5組の起業家チームは11月18日の最終成果発表会に向けて事業を磨き上げていきます。メンターや運営メンバーも全力でサポートしていきます!

プログラムの様子は、こちらのサイト内で適宜配信してまいります。また、キャピタルメディカ・ベンチャーズのTwitterや、SHIPのTwitterでもプログラムの様子は配信していきますので合わせて御覧ください。