Knot Programの第5回定例会が8月17日にオンラインにて開催されました。参加者による発表は今回で5回目ということもあり、これまでの学びが十分に活かされている洗練された内容でした。
さて、今回の講義内容は「Proof of Concept(PoC)/ Minimum Viable Product(MVP)」について。サービス提供を実現していくために、何が必要か学びました。
【イベント情報】
■ 実践型起業家育成プログラム「Knot Program」第5回定例会
主催:株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ、オンラインコミュニティSHIP
日時 | 8月17日(水)19:00〜20:30 |
内容 | ・参加者による発表 ・講義「PoC / MVP」 |
参加者 | ※敬称略、都合により一部匿名・略称表記 <講師> 大久保亮(株式会社Rehab for JAPAN 代表取締役社長 CEO) <発表者> ※発表順 1)畔原篤(薬剤師│公衆衛生学修士) 2)高木大地(株式会社Cone・Xi代表取締役 │ 看護師) 3)田原純平(株式会社ヒフナビ代表取締役 | 皮膚科医) 4)氏家(株式会社Plusbase Co-CEO) 5)古田泰之(PreMed株式会社CEO │ 脳神経外科専門医・脳血管内治療専門医) 6)A(薬剤師) <コメンテーター> 青木武士(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ) <司会進行> 河村由実子(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ) |
【講師紹介】
大久保 亮氏 株式会社Rehab for JAPAN 代表取締役社長 CEO
1987年11月18日長崎県壱岐市生まれ。リハビリ養成校を卒業後、通所介護事業所や訪問看護ステーションにて在宅リハビリテーションに従事。働きながら法政大学大学院政策学修士を取得。要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる世界の実現を目指して2016年6月株式会社Rehab for JAPANを創業。「リハプラン」を開発。日本介護協会関東支部副支部長。
【発表】
サービスのブラッシュアップに向けてスモールステップを踏み出す起業家たち
第4回までのプログラムを経て、どのチームも強みを活かしたサービス内容が固まりつつあります。具体的な費用設計を視野に入れながら、最終的に実現したい構想に向かってスモールステップを踏み出しているチームもみられました。
では、現段階で参加者が考えているサービスの設計とその検証について、発表内容をもとに紹介します。
頭痛の予防を身近にセルフマネジメントを提案
薬剤師である畔原さんが考えているのは、頭痛を予防するセルフマネジメントサービス。片頭痛や緊張型頭痛など、頭痛が日頃の生活や仕事での生産性を損なっている様子は多く見受けられます。しかし、頭痛に対して予防や対処の手段を持っている人は少ないのでは?と畔原さんは考えます。
薬剤師の強みを活かし、頭痛で困っている方に向けたアプリやチャットを使った専門性の高い情報やケア方法を提案していきます。今回はモックアップ(模型)を作成し、サービスの内容をより具体化しました。
訪問看護ステーションの社員の定着を目指して
看護師として訪問看護の現場で働いていた高木さんは、現場のヒアリングを通して、訪問看護ステーションの社員の離職率の高さに課題があると話します。
離職率を下げるには、現場のスケジュール効率を改善し、人材確保にかかる社員の業務負担を減らす必要があるのではないかと考えます。現在、株式会社Cone・Xiのサービスの一つとして、その精度を高めている最中です。
皮膚科医の強みをもとにドラックストアとお客さんの相談役を試みる
田原さんは皮膚科医としての臨床経験を強みに、ドラッグストアでお客さんが相談しやすくなるサービスを考えています。
医師である田原さんがドラックストアとお客さんの間の相談役となり、より適切なOTC医薬品を届けることを目標に掲げています。また、サービスを導入することで、ドラックストアのファンをつくり他社との差別化を図れるよう支援していきます。
感情をオープンにできる場作りでメンタルヘルスケアを
看護師のメンタルヘルスケアサービスを提供する氏家さんは、メンタルケアを身近にするために、サービスの利用者が感情や悩みをより表出しやすい方法を考えています。
さらに、感情を抱え込みがちな日本人の特性を踏まえたうえで、オープンにできるようなプラットフォームの重要性を訴えました。暗く捉えられがちなメンタルの問題に対して、ポップな雰囲気のサービス内容が垣間見えます。
音声認識サービスが臨床での情報収集に役立つ
古田さんは、PHR(パーソナルヘルスレコード)を実装する前段階として、音声認識サービスの臨床での活用をと検討しています。
患者さん、医療者双方に役立つ商品を開発するために、まず着目したのが補聴器の精度をあげること。補聴器の音声機能をアップし、それを応用して臨床での情報収集を効率化したいと大きな目標を掲げています。
アナログな情報共有を改善して多職種の連携をスムーズに
サービスの方向性を大きく転換したいと、一から見直している薬剤師のAさん。病院薬剤師の業務負担を減らして、より多職種同士の連携をスムーズにできるようなサービスを考えています。
そのために、疑義紹介をはじめアナログな情報共有の現状を段階的に変更していきたいと発表しました。
【講義】
スタートアップは実現可能性の考慮を第一に!
講師の大久保さんは、作業療法士としての臨床経験をもとに起業しました。医療職から転向し、事業展開に向けて何度も失敗を繰り返した実体験から、起業家ビギナーの皆さんと近しい目線でお話いただきました。
今回は、「PoC/MVP※」をテーマにサービスの検証に関する実践的な講義内容を紹介します。
※PoC(Proof of Concept:概念実証):新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて検証すること
※MVP(Minimum Viable Product):顧客に価値を提供できる最小限のプロダクトのこと
課題と問題を区別して、明確に整理しよう
課題と問題を同じように捉えてもいいといわれる場合がありますが、明確に分けることを大久保さんは推奨しています。なぜなら、お客さんが求める理想(=課題)と実際の問題点は同じとは言えないからです。
例えば、大久保さんの事業であるRehab for JAPANのサービスは、介護事業の利用者が「理想とする老後の過ごし方を実現する」というビジョンを掲げています。「利用者が求める理想的な暮らし方という課題」に対し、それが「実現できていない問題点」とは何かを細かく整理する必要があるということです。
さらに、それぞれのペインポイントの深さを探ってサービス・商品の方向性を絞れば、事業がうまく軌道に乗りやすくなります。
スタートアップは特にMVPに絞ることが重要
課題と問題を整理した方がよい理由はもう一つあります。起業しようと考えた時は、誰もが大きな理想を掲げていることでしょう。しかし、スタートアップは予算がどれくらい集まるのか、少人数の仲間でどれだけ時間をかけられるのか、という現実的な制限がつきものです。
そのため、解決したい課題と問題点は必要最小限のサービスに絞り込むことが、うまくPoCを行うためのコツです。また、財務の観点からも、投資家が納得するようなマネタイズモデルを設計するすることが欠かせないので、まずは小規模から始めることが重要になります。
アセットを意識して段階的にPoCに移行しよう
アセットとは、事業を開始するときに持っている資産のこと。それは、資金・人材・繋がりなど自社の強みとなるもの全体を指します。自社のアセットを意識して、サービス・商品を設計していきましょう。
そして、モックアップを作りビジネス課題とプロダクトやサービスの機能要件のすり合わせを繰り返しながらPoC、つまり実現可能なモデルかどうかを調整していく段階に移っていきます。
【まとめ】
PoCとMVPを意識し事業の方向性を絞る
今回の定例会では、自社のサービスに磨きをかけるべく、それぞれのチームの具体的な歩みが伺えました。実際にモックアップを作り検証段階に移るチームもあり、限られた時間の中で奮闘する参加者に対し、講師の大久保さんをはじめ起業家の先輩方が温かいアドバイスとエールを送りました。
講義では、まずはサービスやプロダクトを必要最小限な範囲に絞るよう繰り返し伝えられ、その重要性を認識できました。定例会後、参加者の皆さんからは以下のようなコメントが寄せられました。
- アセットは自分やメンバーの能力だけでなく、時間や資金、家族のサポートも入ることを学んだ
- 目指す理想の姿と、解決したい点は異なることが分かった。顧客のペインポイントの深さを数値化していきたい
- 自己満足にならないように顧客の本音を引き出していきたい
中には、ペルソナを具体的に設定して、サービスの方向性を絞ろうと早速歩みを進める人もみられました。
さて、次回の定例会の内容はマーケティング手法についてです。ここまで精度を上げてきたサービスを今度はどのように販売していくのか、戦略を練っていきましょう!
プログラムの様子は、こちらのサイト内で適宜配信してまいります。また、キャピタルメディカ・ベンチャーズのTwitterや、SHIPのTwitterでもプログラムの様子は配信していきますので合わせて御覧ください。
【文=川村みさと】