【HVK2022 開催報告②】ヘルスケア課題解決に向けたビジネスピッチ。ネクストアクションへつなげ

  1. HVK2022

Healthcare Venture Knot 2022、第二部では実践型起業家育成プログラム「Knot Program」の参加者によるビジネスピッチコンテストが開催されました。この記事では、5名の起業家による発表の様子をお伝えします。

ヘルスケア領域の課題をビジネスで解決するため、起業家を育成することを目的に始まった本プログラムは、株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズと、株式会社omnihealが運営する医療・介護・福祉領域に関心が高い人のためのオンラインコミュニティSHIPが協働で運営しています。

本プログラムでは、ヘルスケア領域のベンチャーキャピタリストや先輩起業家による実践的な講義、メンターやアドバイザーによるきめ細やかなサポート、さらに参加者がビジネスプランをアウトプットするための定例会など、起業や事業拡大に向けて着実なステップを踏むことができます。

参加者は講師やメンターからのフィードバックを基に、ビジネスプランのブラッシュアップを重ね、7ヵ月で大きな成長を遂げてきました。本番では、著名なキャピタリスト達が審査員として見守るなか、ときには手に汗を握る、ときには笑いや共感を誘うピッチが繰り広げられました。

登壇した5名の起業家と司会

イベント情報

「Healthcare Venture Knot 2022」
2022年11月19日(土)13:00〜17:30
場所:デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス
主催:株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ、オンラインコミュニティSHIP

※敬称略

第一部:パネルディスカッション1 「在宅医療DXの実践」
第二部:実践型起業家育成プログラム「Knot Program」参加者5名によるビジネスピッチコンテスト
登壇者 
<プレシード部門>
・薬剤師 畔原篤
・薬剤師 三宮和晃
・株式会社ヒフナビ代表取締役 田原純平
<シード部門> 
・株式会社Plusbase Co-CEO    氏家好野
・株式会社Cone・Xi代表取締役 高木大地

審査員 
・株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ代表取締役 青木武士
・株式会社omniheal代表取締役社長/医師 石井洋介
・ライフタイムベンチャーズ代表パートナー 木村亮介
・南都キャピタルパートナーズ代表取締役社長 堺敦行
・アーキタイプベンチャーズ代表取締役/マネージングパートナー 福井俊平
・グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 福島智史
・マネックスベンチャーズ代表取締役 和田誠一郎
・SMBCベンチャーキャピタル副部長 中野哲治

進行     
・株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ コミュニケーター 長瀬みなみ
・株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ コミュニケーター 河村由実子
第三部:パネルディスカッション2 「Web3×ヘルスケア」
ピッチコンテストの表彰式
クロージング
ピッチ会場
審査員


第二部:実践型起業家育成プログラム「Knot Program」参加者5名によるビジネスピッチコンテスト

5名の参加者は、これまで培ってきた現場経験をもとにヘルスケア領域の課題を抽出しました。彼らの実現したい世界観は、審査員を唸らせるものばかりでした。

プレシード部門のエントリーは、薬剤師の畔原氏、薬剤師の三宮氏、株式会社ヒフナビ代表取締役の田原氏の3名。シード部門のエントリーは、株式会社Plusbase Co-CEOの氏家氏、株式会社Cone・Xi代表取締役の高木氏の2名です。


プレシード1)頭痛セルフマネジメントサービス『タカサレ』の開発

トップバッターは、片頭痛特化のオンライン服薬指導と頭痛セルフマネジメントサービス『タカサレ』を提供する畔原氏。片頭痛のペインの深さについて、当事者の声や社会的損失を示して訴えました。

タカサレは、頭痛治療に詳しい薬剤師をはじめとする専門職が処方薬の飲み方を適切にアドバイスするサービスです。また、頭痛ダイアリーをもとに認知行動療法を用いて個人に合ったセルフケア方法も案内します。この組み合わせにより、当事者自身が、自分の状態を言語化し、日々のパフォーマンスアップにつなげることを目指しています。「片頭痛持ちの方が仕事に集中できるように!」という畔原氏の思いが会場全体に響きました。

保険適応である処方薬とチャットでの相談料でマネタイズ設計しているため、ユーザーの負担額が安価に抑えられ、継続的に予防治療に捻出しやすいプラットフォームであることを印象付けました。


プレシード2)薬局業務支援サービス『ラクギギ』などの提供

薬局と医療の連携を目的に、疑義照会のDXの視点で切り込むサービス『ラクギギ』。薬剤師の三宮氏は「患者へ適切な処方薬を提供するために、調剤薬局の薬剤師と病院の医師が処方箋の確認作業をしなければならず、これを疑義照会といいます」と、まずは疑義照会に関する分かりやすい説明から入りました。アナログな医療連携の現状に訴求し、「現場が導入しやすい方法で疑義照会のDXを図ることが大切です」と、そのアイデアを披露しました。

今後、DXにより疑義照会の効率化がなされれば、捻出した時間を患者にとって付加価値の高いサービスに転換できると繰り返し説明しました。着々と技術を担保できるメンバーが集まっている状況で、その多様で個性的なメンバー紹介が会場を沸かす盛況なピッチとなりました。


プレシード3)皮膚疾患の遠隔医療相談サービス『ヒフナビ』の提供

神妙な雰囲気をまとわせ、皮膚疾患のペインの深刻さを訴求した株式会社ヒフナビの田原氏。皮膚科領域の歴史をたどり、そのビジネスの可能性について観衆の注目を誘いました。

挑戦するのは、ドラックストアでのOTC医薬品の価値創出です。ドラックストアと顧客の間に立ち、皮膚に特化した適切なオンライン相談を可能とすれば、最大で全国に2万店舗あるドラックストアの医療提供価値をあげ、皮膚疾患に悩む方に貢献できると構想しています。

「あなたの健康をあなたのものに」というキャッチワードを体現すべく、『ヒフナビ』では未受診者や難治例患者に役立つサービスを作りたいとビジョンを語りました。


シード1)看護師のメンタルヘルスをサポートする『ナースビー』の提供

シード部門のトップバッターは看護師のメンタルヘルスをサポートする仕組み作りに挑戦する株式会社Plusbase の氏家氏。既に2022年10月末日にリリースした『ナースビー』について、「日々の漠然とした不安やしんどいさを『ぴえん』ボタンで気軽に吐き出せるLINEでのプラットフォームです。リリースから2週間で350名、11月19日時点で700名以上の看護師が登録しています」と、その需要の高さをアピールしました。

一手目である今回の心の見える化の支援は、とても親しみのある設計であり、ピッチ中にLINEの登録画面を開く審査員もいるほど好評でした。今後は、外部サービスと連携した伴走型のメンタルヘルスサービスを計画しています。そのサポート体制に対して、会場からは「率直によいサービスだ」と評価されました。


シード2)訪問看護事業所向けの業務支援サービスを提供

ピッチコンテストのトリを務めるのは、訪問看護事業での人材不足を解決する『Chokowa』を提供する株式会社Cone・Xiの高木氏。看護師が働きたいエリアと時間、時給、専門性をアプリ上に登録し、その条件に合った訪問事業所に派遣されるというサービスです。

将来的には、「病院看護師が訪問看護の現場に出向き、当たり前に地域連携に参入できるようアプローチしていきたい」と語りました。サービスへの評価について、派遣された看護師の満足度は高く、外出支援を利用した患者からは「外出できた喜びが得られ次の目標ができた」というフィードバックがあったと報告しました。

高木氏は、その提供価値を実感しているとともに、「患者さんが思い描いているものを、医療者がつないでいく世界を実現したい、そんな世界を僕は美しいと感じます」と、自信をもって語りました。


ピッチコンテスト表彰式

ピッチコンテストの後、審査員からは「参加者5名全員がヘルスケア領域の現場の課題解決のために信念を持って実践している状況が感じられた」と好評を得ました。また、「医師だけでなくさまざまな医療専門職の方がビジネスに乗り出す潮流がすばらしく、今後実践を重ねてブラッシュアップしてほしい」と前向きなコメントを頂きました。



厳粛な審査の結果、非常に僅差ながらプレシード部門、シード部門の最優秀賞が以下のように発表されました。

<プレシード部門>
最優秀賞 頭痛セルフマネジメントサービス『タカサレ』 発表者:畔原篤氏

畔原氏は、サービス制作にあたって関わってくれた方々や来場者に向けての感謝と、「サービスの内容をさらに磨いてまいります」と、展望を述べました。

最優秀賞を受賞した畔原氏(左)とメンターの佐藤氏



<シード部門>
最優秀賞 看護師のメンタルヘルスをサポートする『ナースビー』 発表者:氏家好野氏

株式会社Plusbase Co-CEOの氏家氏は、「Knot Programに参加したおかげで、医療従事者であるメンバーもビジネス思考に転換でき、チーム全体が強くなりました」と、成長の喜びを語りました。

Plusbaseのメンバー


クロージング

クロージングでは、3年ぶりの会場開催が叶った本イベントについて、主催者の青木氏と石井氏は、「非常に温度感のあるイベントとなりました」と、その喜びを述べ締めの挨拶としました。

閉会後の親睦会では、イベント内で生まれた問いや関心に従い、周りの参加者と共有する様子が自然と生まれており、地域や専門性を飛び越えて多種多様な交流が見受けられました。本イベントのコンセプトである「ビジネスサイドと医療現場の考えを学び合い、ネクストアクションにつなげる」が体現されており、ヘルスケア領域のビジネスのさらなる発展を願わずにはいられません。

ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。



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報告③ Web3×ヘルスケアの実践


【取材・文=川村みさと、撮影=ひろし】