【HVK2022 開催報告①】在宅医療DXの実践

  1. HVK2022

「医療者とヘルスケアベンチャーを繋ぐ」をコンセプトに、「Healthcare Venture Knot 2022」が、2022年11月19日デジタルハリウッド大学駿河台キャンパスにて開催されました。5回目となる本イベントは、医療者とビジネスパーソンが手を取り合い、医療現場の真のニーズを解決するヘルスケアビジネスを創造しようと、毎年イノベーティブな機運を高めるきっかけとなっています。

今年は、テクノロジーを活用した現場の最前線についての2つのパネルディスカッションと、実践型起業家育成プログラム「Knot Program」に参加した5名の起業家によるピッチコンテストが行われました。会場・オンラインともにリアルなヘルスケア課題の実情に迫る声が寄せられ、新たな学びとさまざまな領域の方がつながり合う会となりました。

本記事では、イベントの第一部「在宅医療DXの実践」をテーマとしたパネルディスカッションの様子をお伝えします。


イベント情報

「Healthcare Venture Knot 2022」
2022年11月19日(土)13:00〜17:30
場所:デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス
主催:株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ、オンラインコミュニティSHIP

※以下順不同、敬称略。登壇者のプロフィールはページ末に記載

オープニング
登壇者   
・株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ代表取締役 青木武士    
・株式会社omniheal代表取締役社長/医師 石井洋介 
第一部:パネルディスカッション1 「在宅医療DXの実践」
登壇者 
・藤田医科大学 連携地域医療学助教 近藤敬太    
・株式会社コールドクター代表取締役医師 丸山浩司       
・株式会社Confie代表取締役社長/医師 上田悠理    
・株式会社omniheal代表取締役社長/医師 石井洋介 

司会   
株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ代表取締役 青木武士
第二部:実践型起業家育成プログラム「Knot Program」起業家5名によるビジネスピッチコンテスト
第三部:パネルディスカッション2 「Web3×ヘルスケア
ピッチコンテストの表彰式
クロージング

オープニング

「Healthcare Venture Knot 2022」のオープニングでは、主催者である青木氏と石井氏が、息の合ったコンビネーションで会場を沸かせ、3年ぶりの来場イベントとなった喜びを語りました。「医療現場が持つ課題をビジネスとテクノロジーを用いて解決する可能性」について触れ、「本イベントがそのネクストアクションに繋がる機会となるよう期待をしています」と話しました。

第一部:「在宅医療DXの実践」DXの目的の追求と手段の採択

第一部では、ITシステムやデジタルツールを上手く使い在宅医療の最前線で活躍している医師や在宅医療のDXに取り組むスタートアップなど医療×DXに精通したパネリストらが「在宅医療DXの実践」をテーマにディスカッションしました。

DX実践と在宅医療の本質

藤田医科大学の近藤氏は「過疎地域で患者数が増えていく現状に苦労しています。特に、患者の病態や要望と医師の専門性をうまくマッチさせるのが大変で、さらに医師の回診ルートを効率よく確保する必要があります。」と、手作業でリソースを分配する点の難しさについて強調しました。

自宅で医師の診察を受けることができる往診サービスを提供する株式会社コールドクターの丸山氏は、「患者の特徴と医師の専門分野をデータ化し、自動的に担当先を決められるシステムを開発しています。しかし、医療は信頼関係を築いて向き合っていくものなので、現在は人が介入して割り当ての微調整を図っています」と、医療の特性や施策が語られました。

ヘルスケアとビジネスを橋渡しする専門家プラットフォーム「Medivisor」を開発・運営する株式会社Confieの上田氏は「主治医じゃないと絶対にイヤという患者もいるのが難しい点です。システム化が100%不可能とはいえないけれど、患者がよりよく生きて、よりよく死ぬ環境を作るには、医療者が会話をもって関係性を作っていくことが重要です」と、医療の本質的な部分を語り会場全体が納得感に包まれました。

さらに上田氏は「患者の状況や要望のポイントに合わせていくことが大事。患者の医療体験による満足度を定量化する動きが在宅領域では見受けられます」と話し、この意見に近藤氏も賛同しました。


現場への導入ハードルとコミュニケーション課題をどう乗り切るか

続いて、システムやツールの導入に関してどのような課題や施策に関心を抱いているかについてディスカッションしました。

東京都内で在宅医療を展開する株式会社omnihealの石井氏は、「現場のスタッフが慣れるまでが大変ですが、あえて医療特化のシステムでなく、一般的によく使われていて多くの人に馴染みのあるデジタルツールを駆使することにより記録を取り、データベース化することにチャレンジしています」と、現場スタッフのシステム導入への抵抗感を減らす努力を明かしました。

システム導入に対して難しさを感じる医療スタッフは多く、いかに運用を簡素化し使い慣れてもらうかがポイントになります。また、医療現場は電子カルテにも適応してきた過去があるため、「医療現場のDXは可能だろう」との見方がある一方で、患者体験価値を高めるためにはあえてアナログツールを併用するのも大切だという意見には、登壇者全員が大きくうなずきました。

さらに、在宅医療における課題は、終末期に向かっていく患者の意思をどう共有するかという点にもあります。丸山氏は、「患者の医療体験価値をあげるには、DXによって医療者のコミュニケーションをスムーズにすることと、患者の思いをすくい上げやすい情報共有の方法を選ぶことが重要。また、往診に行く医師はその作業環境から未だに手書きでのカルテを捨てきれていないので、診療情報の共有は大きな課題です」と訴求しました。



会場では、在宅領域だけでなく介護と医療の連携や、介護現場のモチベーションをアップさせるコミュニケーション方法についてもディスカッションされ、DXがもたらすメリットと実際の活用方法について考える機会となりました。

このディスカッションを受けて、司会の青木氏は「患者のADLのみならずQOLの追求のために患者の人生をファシリテートしていくのが在宅医療に関わる医療者の役割であり、在宅医療の目的を明確にしたうえでシステムを利用することが、領域を超えた情報共有の際に大切であるということがわかりました。そして経営コストに合わせて現場が使い慣れているツールを採択することが、DX推進のキーワードですね」と、締めくくりました。


まとめ

本稿では、「Healthcare Venture Knot 2022」の第一部のパネルディスカッションの様子をお伝えしました。さまざまな分野の専門家たちが垣根を越えて意見を交え、各人がヘルスケアビジネスのネクストステップを想像した貴重な機会となりました。

「何のためにその技術を用いるのか」、ヘルスケアビジネスの本質を捉えながら業界全体の明るい未来を皆さんとともに描いていきたいと思います。

イベントにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。


<関連記事>
報告② Knot Program参加者によるピッチコンテスト

報告③ Web3×ヘルスケアの実践



登壇者プロフィール

第一部:パネルディスカッション1 「在宅医療DXの実践」
近藤敬太藤田医科大学 連携地域医療学助教 )  

2014年愛知医科大学卒業、トヨタ記念病院にて初期研修、藤田医科大学 総合診療プログラムにて後期研修修了。研修中に聖路加国際病院などで勤務し2019年に半田中央病院 総合診療科の立ち上げに携わり現職。現在は日本最大規模の総合診療プログラムに指導医として所属し、豊田地域医療センター在宅部門長として勤務。約600名の患者さんに対し在宅医療を提供している。夢は愛知県豊田市を「世界一健康で幸せなまち」にすることであり、まちに出るコミュニティドクターとしても活動している。


丸山浩司(株式会社コールドクター代表取締役医師)

2014年筑波大学医学群医学類卒業。国立国際医療研究センター病院で前期/後期研修修了。糖尿病専門医・内分泌内科専門医。『良い医療は病院内のみでは完結しない』という課題をもち、ITや新しい力で医療をアップデートするコールドクターと出会い2021年 (卒後8年目)より入社。通常の病院があいていない平日夜間・休日でも医療相談・OL診療・往診という形で、誰もが自宅で診察や相談を受けることが可能な「みてねコールドクター」を提供し、全国エリア拡大中。コロナの自宅療養者への支援に加え、消防局と連携して救急車の適正利用に貢献する。


上田悠理(株式会社Confie代表取締役社長/医師 )

形成外科、在宅訪問診療医。医療法人向生會理事長として高齢者の褥瘡管理を中心に常に150名以上の高齢者ケアに携わる。臨床を継続する傍ら、ビジネスと医療をつなぐ翻訳家、ヘルステックプロモーターとして活動。2017年よりヘルステック領域のグローバルカンファレンス(メドピア・日本経済新聞主催)に統括ディレクターとして参画。現在はHealthtech/SUMとしてヘルスケア領域のイノベーションのハブとなっている。その他、企業の新規事業開発支援や学術機関との共同研究の推進、国内外のベンチャー支援、執筆や講演など、ヘルスケア領域のエコシステム創造を掲げて積極的に活動している。早稲田大学法学部卒、岡山大学医学部卒。


石井洋介(株式会社omniheal代表取締役社長/医師)

2010年高知大学卒。消化器外科医として手術をこなす中で、大腸癌などの知識普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」の開発・監修、「日本うんこ学会」の設立を行う。厚生労働省医系技官や経営コンサルタント等を経て現職。おうちの診療所、秋葉原内科saveクリニックにて共同代表を務める。著書に『19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと』(PHP研究所、2018年)など。




【取材・文=川村みさと、撮影=ひろし】