半年にわたる起業家育成プログラム、Knot Programの定例会はついに最終回となりました。資金調達の段階に踏み入れる人も出てきており、各自、ピッチコンテストの準備は着々と進んでいます。今回の定例会では本番に向けて、プロダクトやサービスの投資価値をより効果的にアピールする術を学びました。
講師にはプレシード/シード特化型のベンチャーキャピタルであるライフタイムベンチャーズの代表パートナー木村亮介さんを迎え、スタートアップ企業が資金調達するために取り入れたいピッチの要点と、投資家の視点を意識したプレゼンテーションの構成についてお話しいただきました。
イベント情報
■ 実践型起業家育成プログラム「Knot Program」第7回定例会
主催:株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ、オンラインコミュニティSHIP
日時 | 10月19日(水) 19:00〜20:30 |
内容 | ・参加者による発表 ・講義「資金調達におけるピッチの要点」について |
参加者 | ※敬称略、都合により一部匿名・略称表記 <講師> 木村亮介(ライフタイムベンチャーズ 代表パートナー) <発表者> ※発表順 1)畔原篤(薬剤師・公衆衛生学修士) 2)A(薬剤師) 3)田原純平(株式会社ヒフナビ代表取締役│皮膚科医) 4)氏家(株式会社Plusbase Co-CEO) 5)高木大地(株式会社Cone・Xi代表取締役│看護師) 6)古田泰之(PreMed株式会社CEO│脳神経外科専門医・脳血管内治療専門医) <司会進行> 河村由実子(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ) |
【講師紹介】
木村亮介氏(ライフタイムベンチャーズ 代表パートナー)
<略歴>
一橋大学商学部経営学科を卒業後、プライスウォーターハウスクーパース株式会社(現:PwCアドバイザリー合同会社)及びKPMGヘルスケアジャパン株式会社にて公共インフラ/ヘルスケア領域に関するコンサルティング業務に従事した後、2015年2月よりインキュベイトファンドへ参画し、40社超の投資先支援に従事。2017年1月にライフタイムベンチャーズを設立。プレシード/シードステージに特化したインキュベーション投資を行っている。経済産業省J-Startup推薦委員、経済産業省ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)2018~2022審査員。
【発表】
ピッチで意識したいプレゼンテーションの構成とは?
Knot Programを通して、参加者はヘルスケア領域の課題に対して、「こんなことが実現できたらもっと良くなるのに…」と、粘り強く向き合い続けました。現在は、実際にサービスの開始もしくは検証を進め、ユーザーの反応や声を基に改善を重ねているところです。今回はそのようなトラクションやインサイトをもとに、資金調達を目指すピッチの予行演習をしました。
それぞれ発表後には、講師の木村さんからピッチの具体的な改善点の指摘もありました。
チームや実績は出来るだけ早く説明し、聞き手の関心を誘う話の組み立てを
片頭痛特化のオンライン服薬指導と頭痛予防プログラムを提供する「タカサレ」。代表の畔原さんは、LINE公式アカウントにて現在27名のユーザに対しアドバイスを実施しています。ドラックストアでの15年以上にわたる服薬指導実績を強みに、既にユーザーから好評の声が寄せられています。
本番のピッチでは、ヘルスケア領域への知見がない投資家に対しても信頼性を担保できる内容にするため、チームや実績を最初に説明し、聞き手の関心を誘うようアドバイスを受けました。
共感を得るピッチの構成!ユーザーのユニークな感想は全面的にアピール
疑義照会のDXにより薬局薬剤師の作業負担を減らす「ラクギギ」。薬剤師のAさんは、疑義照会の不備による医療アクシデントを事例に挙げ、課題解決の緊急性を訴えます。リリース前ながらコンサル契約を結べたことを報告し、その注目度をアピールしました。
さらにインパクトを残すピッチにするために、聞き手の共感を得る問いかけや、契約ユーザーのユニークな感想を全面的に主張するよう学びました。
特化型サービスは次の展開も説明できると上出来
OTC医薬品を適切に使用してもらうために、ドラックストアを介して皮膚科医がオンライン相談に乗る「ヒフナビ」。代表の田原さんは、皮膚薬が適切に処方されていないばかりに年間130トンも無駄になっている現状を訴えました。ドラックストアでヒフナビのサービスが開始されれば、皮膚薬の無駄遣いを減らせると、そのビジネス規模と成長予測を具体的に説明しました。
講師の木村さんによると、このような特化型サービスは一見小さい市場に見えがちですが、高い市場シェア率を獲得できるため有効です。より投資を得るピッチにするには「二手目のアイデアを持って引き付けるとよい」とコメントしました。
職種特化型のサービスは業界の知識や背景を明瞭に
LINE公式アカウントでの自己表出で心の見える化を図る、看護師のメンタルヘルスケアサービス「Ns.be(ナースビー)」。Co-CEOである氏家さんは、自己表出のハードルを下げるために、看護師を取り巻く環境やユーザーの気質を配慮したプラットフォームを用意します。その後、3ステップで外部とも連携したメンタルヘルスケアを提案し、看護師業界のやみくもな転職やメンタルダウンの深刻化の防止に挑むと説明しました。
フィードバックでは、その職種に特化する理由を業界の知識を含めて説明できると投資価値を高められると指摘されました。例えば、「看護師の人員不足は病院経営の視点から深刻な問題で、メンタルダウンしやすい傾向にある看護師業界の支援は必須である」といった内容です。
ビジネスモデルとスケールの指標を詳らかに
訪問看護業界の人材不足をチョコっとワークで解決する「chokowa」。代表の高木さんは、働きたい思いのある潜在看護師や、病院看護師の副業に焦点をあて、隙間時間を利用した看護師のマッチングサービスを提供しています。ユーザー数、マッチング数、ユーザーの満足度などを具体的に説明し、マネタイズの実績をもとにサービスの有益性を主張しました。
講師の木村さんからは、こうしたマーケットプレイス型のビジネスモデルの場合、GMV(流通取引総額)という重要な指標を念頭に置くよう説明を受けました。取引にかかる利用料を鑑みると、需要を100%満たせる供給額とユーザーの継続率を含んだサービスの質や成長規模などのデータを揃えておくことが聞き手の納得を得られるポイントとなります。
聞き手のインプットを意識したピッチ構成を
医療への知見、エンジニアリングを強みに既にコンサル支援サービスを提供しているPreMed株式会社の古田さん。現在挑戦しているのはPHRを社会実装するための音声認識技術の開発です。そして、特に難聴者へ明瞭な音声を届けるため、AI技術により全く新しい補聴器を生み出そうとしています。発表では今後の高齢化社会で難聴者の問題は無視できない事実とその市場規模にビジネスの可能性があると明示しました。
フィードバックでは、「何をしている会社なのか」聞き手が困惑しないよう、ピッチの再構成を提案されました。既に起業している会社の場合、先行サービスの紹介と今回発表するサービス内容が混同されてしまいがちです。聞き手がスムーズに内容を把握できるよう順序だてるとより分かりやすいピッチにすることができます。
【講義】
起業前からゴールイメージを持って資金調達に挑め!先輩起業家のピッチブックは宝の山
講義では、ベンチャーキャピタリストである木村さんに資金調達ためのピッチを成功させるには、何を学んでおく必要があるのか詳しく説明いただきました。
プレシード・シードステージに当たる参加者ですが、IPO(株主公開)直前のピッチのポイントについて学んでおく必要性が伝えられました。起業家がゴールイメージを持ってビジネスを仮説検証していないと投資家の共感を得られないため、先を見据えたピッチの要点を学んでおくことが大切です。
また、上場する企業の事例に早期から触れておくとインスピレーションを受けられます。先輩起業家のピッチブックを参考にするよう具体的なリサーチ方法とともに紹介されました。
投資家にとって「トラクションが全て」というほど、資金調達のためのピッチにはトラクションの要素を全力でアピールすることが大切です。成長戦略をオープンにし、各社のユニークなアイデアや強み、実績をもってピッチに挑みましょう!
【まとめ】
「Healthcare Venture Knot 2022」の開催に向けて勢いづく起業家たち
Knot Program最後となる今回の定例会では、参加者の皆さんはピッチの精度を上げるべくいつも以上に真剣な面差しで発表されていました。講師の木村さんによる実践的かつ投資家目線のレクチャーのおかげで、本番に向けて一層勢いづき、参加者の皆さんからは次のような感想や学びの声が寄せられました。
- 自社サービスのトラクションを磨き続けて競合優位性を主張します!
- ユーザーの声をピッチに反映し、聞き手の心を掴む内容にブラッシュアップします。
- 先輩起業家たちのピッチブックを参考に資金調達を意識したKPI設計とトラクションのゴールを決定します。
次回は、集大成である「Healthcare Venture Knot 2022」での発表!起業家たちが精魂込めたビジネス内容を披露します。さらに、パネルディスカッションでは豪華なゲストをお招きし、「在宅医療のDXの実践」、「Web3.0×ヘルスケア」について最先端のお話を伺います。現地、オンラインにて参加可能な注目度の高い本イベント。内容の詳細は引き続きレポートにてお伝えいたしますのでお楽しみに!
※「Healthcare Venture Knot 2022」は2022年11月19日に開催されました。
プログラムの様子は、こちらのサイト内で適宜配信してまいります。また、キャピタルメディカ・ベンチャーズのTwitterや、SHIPのTwitterでもプログラムの様子は配信していきますので合わせて御覧ください。
【文=川村みさと】