HVK2018開催レポート

  1. HVK2018

『Healthcare Venture Knot』は、9月9日御茶ノ水ソラシティ 駿河台ホールにて、「キャピタルメディカ・ベンチャーズ」と「SHIP」(Sustainable Healthcare Incubation Park:運営主体 株式会社omniheal)によって共催されたヘルスケアイベントです。

はじめに、キャピタルメディカ・ベンチャーズの青木武士とSHIPの運営代表の石井洋介が登壇してイベント趣旨を説明をしました。

キャピタルメディカ・ベンチャーズ青木:

「イベントのテーマは“医療者とスタートアップを結ぶ”です。ヘルスケアスタートアップはそのサービスやプロダクトを医療現場で実証したいと考えているが、医療現場ではよく分からないくて不安定なものを使う事に不安を覚え、協力を得るのが難しいという課題があります。」

SHIP石井:

「一方、医療者は現場で働くなかで“こうなればいいのに”という課題感はあるものの、それをサービスやプロダクトに落とし込んでビジネスに結び付けることが難しいという話をよく聞きます。どちらも“当事者のために”という想いは同じなので、対立するのではなくその両者を結ぶ(Knot)イベントを開催したいと思いました」

今回の『Healthcare Venture Knot』では、医療者とスタートアップをつなぐことを目的に2つのコンテンツを準備しました。

女性の「がん」をテーマにしたパネルディスカッション

更にはビジネスコンテストを開催、大きく2部門に渡りピッチイベントを行いました。

【アイデアピッチ部門】

医療・介護等のヘルスケアの現場に従事し、直面している課題解決につながるビジネスのアイデア

両部門とも最終審査に残った各4者が登壇し、最優秀賞を決定します。

まずは【アイデアピッチ部門】からご紹介しましょう(敬称略)。

①松田 謙(医師) 、谷垣 信行(エンジニア)~COPD増悪の早期検知及び早期介入による入院率及び入院期間の減少~
②小迫 正実(一般社団法人Healthcare Ops 代表理事)~病院経営事例作成・収集による、職員教育と経営効率化~
③中田 宏樹(理学療法士)~理学療法士の検索サービス
④伊藤 由希子(鍼灸師)~シゴト場での不調を予防のチャンスへ。頑張るあなたへ「おきばりやす」プロジェクト

◎審査員

五十嵐 健祐(医療法人社団お茶会 お茶の水循環器内科院長)
下河原 忠道(株式会社シルバーウッド 代表取締役)
武林 亨(應義塾大学医学部・大学院 健康マネジメント研究科教授)
裵 英洙(ハイズ株式会社代表取締役社長 医師・医学博士)
古川 淳 (株式会社キャピタルメディカ代表取締役)
山手政伸(厚生労働省 医政局経済課 ベンチャー等支援戦略室開発等戦略相談専門官)
山中 礼二(一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム ディレクター、グロービス経営大学院専任教員)
吉村 健佑(千葉大学医学部附属病院 病院経営管理学研究センター 特任講師)

古川さんからは。

「素晴らしいサービスも病院や高齢者施設といった現場に受け入れてもらわなくては運用できません。そのためには、現場には決められたオペレーションルールがあり、そのオペレーションに対してサービスが上手くインストールできるのか、使う側(医療者)の作業内容を理解する必要があります。加えて、施設の意思決定層にどのように訴え、説得するかも想定してビジネスを作り込んでいくことが重要です。」

と、長年にわたり病院の経営・運営支援に関わってきている経験からなる指摘をしていました。

全員のプレゼンテーションが終わると

「アイデア部門は粗削りの部分も多く感じられたかと思います。しかし医療現場にいるからこそ日々感じている課題をなんとか解決したい!というそのパッション・熱量の高さを評価してもらいたいです!」

と青木さんが総括して、審査に入りました。

そして厳正なる審査の結果、「最優秀賞」は・・・中田宏樹さんが受賞、賞金30万円を獲得されました。

中田さんは理学療法士の検索サービスを通じて、ケアマネージャーの「どの理学療法士等が良いのか選ぶことができない」課題と介護サービス事業所の「利用者に対して適切な機能訓練サービスを提供することをPRしたい」思いをマッチングし、利用者にとって最適なケアサービス提供したい、と提案されました。

さらに、急遽設けられた「審査員特別賞」は伊藤由希子さんが受賞されました。

伊藤さんはオフィスグリコのように、“円皮鍼(えんぴしん)”と呼ばれるシール式の鍼をオフィスに設置するサービスを通じて、世の中から肩こりをなくしたい、と提案されました。

おめでとうございます!

【アーリー部門】

既に起業をされプロダクトが実装されていて、長期的に持続可能なビジネスプランを、最終審査に残った各4者が登壇し最優秀賞を決定します。

① 大嶋 啓介(株式会社Appdate代表取締役社長)~病院とクリニックを連携させる「メドプラス」~
②小川 晋平(AMI株式会社代表取締役、循環器内科医)~開発した「超」聴診器を用いた「AMI」~
③川原 大樹(株式会社KURASERU代表取締役CEO)~地域包括ケアに寄添った退院支援の「KURASERU」~
④石井 健一(ネクストイノベーション株式会社代表取締役)~月経困難症などを支援するオンラインピル外来の「スマルナ」~

◎審査員 ※敬称略

青木 武士(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ代表取締役)
石見 陽(メドピア株式会社代表取締役社長 CEO 医師・医学博士)
加藤 浩晃(京都府立医科大学 特任助教、デジタルハリウッド大学大学院客員教授)
後藤 隆久(横浜市立大学附属市民総合医療センター 病院長)
原 亨弘(株式会社キャピタルメディカ取締役)
福田 升二(株式会社エス・エム・エス 執行役員 、事業開発本部長)
古川 淳 (株式会社キャピタルメディカ代表取締役)
山中 礼二(一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム ディレクター、グロービス経営大学院専任)

実際にヘルスケア領域でビジネスをされている方々ということもあり、審査員からもより具体的な質問が飛び交いました。

キャピタルメディカ原さんからは、

「地域連携領域でのビジネスは、どの病院や介護施設でも課題と認識しており、問題解決として取り組みやすい領域である。従って、過去現在と我々も含めて多くの企業が参入している分野。多くの企業が参入しているものの、決定的なサービスは作られていない。
地域連携領域において、上手く言っている現場においても、職人技を持っているソーシャルワーカーが存在するのでスムーズに進められているなど、属人的なスキルセットに頼って問題を解決している事が多い様に思われる。多くの企業や現場が課題解決にチャレンジしている中で、属人的ではなく仕組化できるビジネスモデルが確立すれば一気に社会の課題を解決できる可能性がある。」

と期待感を滲ませていました。

またヘルスケア領域に精通する審査員からは、医療者の考えるビジネスプランについて、

「プロダクトアウト的な発想が多いことがある。自分が経験した悩みを全体の課題だと捉えてしまい、汎用性のないソリューションやプロダクトを作ってしまうことがある。本当に現場の課題解決になるのか、マーケット(医療現場)の声をしっかりと聞き、どんな課題があるのかを確認するべき。ドリルが欲しい人は、ドリルが欲しいのではなくて穴を開けたいニーズがある。医療者の陥りがちなビジネス発想として、個別事象の解決を行う事を優先し、本質的に何故その個別事象があるのか抽象化させることを意識して欲しい。」

といった、医療者ならではのビジネスの作り方についての指摘もありました。

全員のプレゼンテーションが終わると

「厳しめなツッコミもあり、医療者や起業家それぞれの視点から賛否はあると思います。でも冒頭お伝えしたように“患者さんの利益が最優先”であることは両者とも同じで、今回のような活発なディスカッションができたことは有意義だったと思います」

とSHIPの石井が総括して、審査に入りました。

そして厳正なる審査の結果、

「最優秀賞」は・・・小川 晋平さんに決定、賞金100万円を獲得されました。

「超」聴診器は、胸に当てて心音と心音を可視化したビデオを送信することで、遠隔聴診ができる装置。すでに自治体と協力して離島僻地の遠隔診療のサポートを目指しています。

ちなみに「超」聴診器の正式名称は「各種バイタルサイン計測機能搭載 大動脈弁狭窄症自動検出機能付 遠隔医療対応聴診器」だそうです。

おめでとうございます!

最後に、ビジネスピッチコンテスト参加者全員でのフォトセッションをした後、審査員より感想をいただきました。

◎古川 淳 (株式会社キャピタルメディカ代表取締役)
ドクターをはじめ、とても優秀な人材がヘルスケアマーケットでビジネスに取り組んでいることがわかり、これから業界の発展が楽しみです。起業は大変なことが多いですが、苦労を乗り越えた先にとてつもない喜びが待っています。くじけずにがんばってください!

◎山中 礼二(一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム ディレクター、グロービス経営大学院専任)
今回のビジネスプランを選ぶにあたって、「どれだけ社会の進化につながるか」、「マネタイズ」、「レギュレーション」の3つを基軸に評価させて頂きました。今回は全てを完璧に満たすビジネスプランはありませんでしたが、どれも特徴があり、期待が出来るので、それぞれの強味を尖らせて社会を変えていってください。

◎吉村 健佑(千葉大学医学部附属病院 病院経営管理学研究センター 特任講師)
研究や臨床からのアプローチであれ、ビジネスからのアプローチであれ「そのサービスを待っていた、救われた」と多くの人に感じてもらえるのがゴールだと思います。今日のピッチはそのゴールへの貴重なプロセスだと思います。これからもがんばってください。

◎加藤 浩晃(京都府立医科大学 特任助教、デジタルハリウッド大学大学院客員教授)
ヘルスケアビジネスには「医療現場」、「医療制度」、「ビジネス」の視点が大切だと思っていて、その観点から審査させていただきました。そしてヘルスケアの現場には課題がまだまだたくさんあります。来場者の方も今日の登壇者にぜひ続いてほしいです。

◎裵 英洙(ハイズ株式会社代表取締役社長 医師・医学博士)
「ペイシェント・ファースト」が大切だと思います。ビジネスモデルを作るなかでも現場の目線を持ち続けて、患者や医療者と繋がっていてほしいです。そうすることで、ふわふわ頼りなく飛んでいってしまう風船のような曖昧なビジネスモデルにはならず、地に足着いた本当に必要とされるビジネスモデルを創ることができると思います。

◎石見 陽(メドピア株式会社代表取締役社長 CEO 医師・医学博士)
私が14年前に創業した際は「ヘルステック」という言葉もなかったのですが、ここ数年で急激に変わってきているのを感じています。今日の登壇者は原体験を解決するプランだけでなく、マネタイズまで考えていたのがよかったです。これからも「理念と利益を最大化」することを目指してください。

◎原 亨弘(株式会社キャピタルメディカ取締役)
皆さんのフォーカスポイントとファーストアプローチは間違っていないと感じましたので今後の発展に期待しています。同じ分野でビジネスをしている方々とのディスカッションにとても刺激を受けました。今回のようなイベントは継続して行っていきたいと思いました。