医師起業家が切り開くヘルスケアの未来! ヘルスケアベンチャーノット2025トークセッション①
Healthcare Venture KNOT 2025、最初のトークセッションは「医師起業家が切り開くヘルスケアの未来」。三世代の医師起業家が、それぞれの時代背景の中で直面した医療課題やキャリア観の違いについて、飾らない言葉で語り合います。
トークセッション概要

Healthcare Venture KNOT 2025
開催日時:11月15日 12:15~13:00
テーマ:医師起業家が切り開くヘルスケアの未来 ~三世代が語る挑戦と未来ビジョン~
会場:コングレスクエア日本橋
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所
【登壇者】
・裵 英洙|慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科/経営管理研究科 特任教授/ハイズ株式会社 創業者・取締役
・物部 真一郎|超楽長寿株式会社 代表取締役社長
・中原 楊|株式会社medimo 代表取締役 / 共同創業者 / 医師
【司会】青木武士、石井洋介

臨床を飛び出して起業した理由は、三人三様
ステージ上には3人の医師起業家が登壇。青木氏が三世代を順に「ファミコン世代、DS世代、Switch世代」と名指すと会場で笑いが起こります。
裵氏は胸部外科で10年ほど外科医を務めた後、病院経営を勉強し、病院経営に特化したコンサルティング会社を設立。現在は大学で病院経営人材の育成を行っています。
物部氏は精神科医として勤務後、ビジネススクールで学び、仲間とともにオンライン診療サービスの企業を創業、、現在は2社目のスタートアップを経営中。中原氏は現在25歳で、医学部3年生のときに起業、現在はAIによるカルテ完全自動化サービスに取り組んでいます。
まずは「なぜ臨床を飛び出し起業したのか」というテーマで議論が始まりました(以下、敬称略)。

裵「私は現場大好き人間でしたが、なぜ給料が上がらないのか、病院経営が厳しいのかが疑問で、あるとき副院長と話したのです。そのとき『ごめん、俺も分からんねん』って言われて衝撃を受けたことがこの世界に入ったきっかけです。NOマップ、NOマニュアル、NOマスター、つまり地図もマニュアルも師匠もいない3Mでした。今でも覚えているのは、ビジネスの先輩から『裵くんは医師としては価値があるけどコンサルとしては価値がない』と言われたこと。その一言で僕の中にロッキーのテーマが流れました!」
物部「僕が起業したときも、起業家でIT領域でチャレンジする医師、という存在は多くはなく、勇気が必要でしたね。裵先生をお招きして講義をしてもらったりもしました。僕の研修医時代は時給がむちゃくちゃ安くて、当時、ビジネスを始めたんです。小さいサークルみたいなノリで、高知県のタウン雑誌を作ったんですが、すげえ楽しいなと思って、心のハードルは非常に低い状態で起業しました。当時はまだまだ紙カルテが多い時代で、DXし放題というか、起業する上での課題がすぐに見つかった時代だったかなと思います。
中原「僕は、臨床はしたことがない状態で起業しました。高校のときからサービスやプロダクト作りに触れる機会があり、大学は医学部を選びつつも、サービスを作り続けたいと思っていました。大学も自由な雰囲気の中、ナチュラルに起業し、気づいたら従業員も増えお客さんもついてしまい、臨床に飛び込めないままで会社をやり続けています」
裵「起業という選択肢がある、というのはある意味幸せですが難しくもありますね。我々のときは医局に入るという一択しかなかったので楽ではありましたから」
中原「国家試験の勉強と資金調達が重なった時期は、模試でE判定が出て、当時何をしていたか記憶がないです。なんとか合格しました」

医師起業家3名が直面したリアル トラブルに試行錯誤し得た学びと変化とは
続いて、起業した医師として直面したリアルな壁について語っていただきます。医療現場でヒエラルキーの上位にいるがゆえにその感覚が抜け切らずに組織マネジメントがうまくいかない、といったケースがあるようだが、と青木氏が投げかけました。

中原「自分自身も、なんでも自分が頑張ればいいと思ってしまうフシがありました。しかし、顧客に価値を提供できなかったり、システム障害などつらい経験をしまして、いかに最高のプロダクトを作るか、そこから逆算して必要なことをする、ということが大事だと学びました。プライドにこだわらず、ある領域において秀でている人にお願いする、ということを意識的にやろうと考えるようになりましたね」
裵「環境は異なりますが、根っこは同じかなと思います。どんなビジネスでも、最後は人をいかに人として見ていくか、ということで、仲間を大事に、ありがとうと言う、間違えたら謝るとか、小学校の道徳で学んだことをもう一回繰り返しているだけなんです。成功している方って、当たり前のことを当たり前にしている。その上で、エッジの効いたサービスやアイデアを持っています。医師がステレオタイプ的であったとしても、場数を踏み修羅場をくぐり抜けることでトゲは丸くなっていくでしょう」

ここまでのコメントを受けて、困難に直面したとき、自身が変わった、あるいはチーム全体で変わった、というエピソードはあるか、と青木氏が質問しました。
中原「まず自分のメンタリティを変えないと、というところからスタートしましたが、自分がそう思っていること、我々は変わらないとヤバい、ということを素直にメンバーに伝えましたね。ついてこない人もいましたが、基本はついてきてくれる人を中心に働きかけました。今のチームは1年前と比べると50%ぐらいが入れ替わりましたが、課題に直面したときにこそ大事な人が入ってくる、という経験もしました。やはりまず自分が変わらないと何も進まないなという感覚があります」
物部「僕たちはメンバーが入れ替わっていないんですよ。100点のチームを作るというよりも、仲良い人とやりたいというのが強くて。人が入れ替わると心をやられるんですよ。リクルーティングが難しくて、重要なポジションをお願いすると、お願いするのに3カ月、チェックに3カ月かかり、半年が無駄になってしまうので、スーパースターが来るのを待つというよりも自分たちの中で成長していくほうが近道なのかなと思っています」

医療者としての倫理観と“儲ける”をどう腹落ちさせた?
続いて青木氏が、「医療者はちょっと儲けると“金の亡者”と言われたりしますが、ちゃんと儲けないといけないのが現実です。医療者としての倫理観とビジネスにおいて儲けるというところを、どのように腹落ちさせましたか?」と質問を投げかけました。
裵「当たり前のことをしたら当たり前にお金をいただけるということであって、金儲けと医療を二項対立で捉えるという基準で考えたことがありません。ただ、そのようにおっしゃる人が多いのは実感しています。とはいえ、それはそれぞれの価値観で、人の命は地球より重いという価値観もありだと思います。継続的にやっていくにはお金が必要なので、そこは割り切って自分の中で決めているだけですね」
物部「売り上げか利益かで話が変わると思いますが、そもそも資金調達に耐えるような医療系ベンチャーが100あるとして、黒字のところは1あるかどうか。そもそも儲かってへんということが強い、と私は感じます。前の会社は社会的にいいなと思うことをやっていましたが、儲ける方向が難しくて、株主のほうを向いて株価を上げるゲームをやってしまい、すごくアンヘルシーだったんですね。なので、今の会社はちゃんと社会的正義、土台を作り、投資家のほう、お客様のほうを向いてサービスしようと思ってやっています。今は、黒字を出すことをとても強く意識しています」
中原「医療領域のマネタイズは他領域と比べると難易度が高いと思うのですが、不可能ではないし、うまくやれば両立できる工夫はできると思うので、逃げずに向き合うことを意識しています。僕個人としては最高のプロダクトを作りたいので、値引き交渉がくると、基本断ります。値下げするといいものを作れなくなるのでと率直に伝え、そういうポリシーでやらせていただいています」

最後に、次の世代の人たちにメッセージを!
中原「もっとみなさん、気軽に起業したらいいのに、って思っています。仮に将来、臨床家として生きて行くにしても、起業を通して学べることがめちゃくちゃあって、たぶん挫折経験をいちばん積みやすいんじゃないかと思うんです。いろんな人と話せて、コネクションも広がります」

物部「僕もまだまだがんばらなあかんのですが、起業はおもろいし、成長できます。根性がある人はぜひやったら、本当に面白い人生になると思います」

裵「ビジネスやるなら、KNOW-HOWよりKNOW-WHOでしょうね。人のつながりが大事です。何かあったら助けてくれる。もう一つは、チームを作るときは、何をするか、誰とするか。どんなにおいしいご飯でも嫌なやつとは食べたくないし、食べてもおいしくない。ビジネスってそんなもんやと思っています。何をするか、誰とするかということには最後の最後までこだわってください」

後進を育てる立場として当たり前である大切さを説く裵氏、仲間とのプロセスを大切にする物部氏、最高のプロダクト作りにこだわる中原氏、みなさんのビジネスにおけるこだわりが浮かび上がったトークセッションでした。


登壇者プロフィール
裵 英洙(はい えいしゅ)
医師、医学博士、MBA。奈良県出身。1998 年医師免許取得後、金沢大学第一外科に入局、金沢大学をはじめ急性期病院にて外科医として勤務。大学院では外科病理学を専攻。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院 経営管理研究科(慶應ビジネススクール)に入学。首席で修了し MBA(経営学修士)を取得。その後、病院経営に特化したコンサルティング会社のハイズ株式会社を創設し、全国各地の病院経営のアドバイザーとして活躍。また、アカデミックの分野では慶應義塾大学大学院 特任教授はじめ複数の大学院で教職を務め、病院経営に関して教鞭を取る。さらに、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」や「医師需給分科会」の公職を歴任。日経メディカルや日経ヘルスケア等で連載を書き、発刊された書籍は通算 15 万部以上のベストセラーとなっている。
物部 真一郎
2010年高知医科大学(現:高知大学医学部)卒業後、精神科医として勤務。2015年スタンフォード経営大学院卒業(MBA)。2014年エクスメディオ社創業、オンライン診療サービス「ヒフミル君」「ヒポクラ」を開発。2019年同社売却後、 2023年超楽長寿株式会社設立、代表取締役社長。ゴゴスマ出演中。
中原 楊
medimoプロダクト責任者。採用面ではPdMやPjM、テックリードを担当。高校在学中に未踏Jr2017年採択。慶應義塾大学医学部では、システム神経科学とAI技術の医療応用について研究。株式会社MICINを経て、medimoを共同創業。
Text:柳本 操
Photo:上垣内 寛










