インパクト起業家6名が白熱のピッチ!Knot Program参加起業家ピッチコンテスト開催報告
2024年11月23日、キャピタルメディカ・ベンチャーズとおうちの診療所は『Healthcare Venture KNOT 2024』を開催しました。7回目となる本イベントは、医療・介護現場とビジネスサイドが「ヘルスケアをより良くしていきたい!」という共通する思いをもとに、相互につながり、学び合う場を提供することによって真の現場ニーズに即したヘルスケアビジネスを創造していくことを目的としています。
メイン会場では、スタートアップ3社、医療機関4施設がそれぞれの魅力をプレゼンする「魅力発信ピッチ」を展開。続いて、医師芸人・おばあちゃん芸人が会場を沸かせたコラボセッション。そして締めくくりはインパクト起業家育成プログラム「Knot Program 2024」参加者6名の起業家が、ピッチコンテストに臨みます。コミュニケーション会場では、国内注目のヘルスケアスタートアップ、医療機関がブースを出展。企業や医療介護福祉事業者各社の事業、プロダクトを紹介するポスター掲示も行います。
また、今回の目玉として「ソーシャルグッド・フード&ドリンク&スイーツ」を屋台で提供。全国各地の就労支援事業所によるクラフトビールやワイン、スイーツ、また病院のプロデュースする骨粗鬆症対策まんじゅうなどユニークな商品が並びます。参加者はクラフトビールや寿司、スイーツを片手にさまざまな領域の人々と交流し、親睦を深めました。
本記事では、イベント終盤の約1時間に及んだピッチコンテストの様子をお伝えします。6名の起業家たちがメンターとともに本番に向けて半年間かけ、練りに練ってきたビジネスプランを7分間の枠内にぎゅっと詰め込み思いの丈を熱く語りました。
イベント概要/メイン会場タイムテーブル
Healthcare Venture KNOT 2024
開催日時:11月23日(土) 12:00~17:00
12:00 開会
12:15 魅力発信ピッチ <スタートアップ部門>
13:00 魅力発信ピッチ <病院部門>
14:00 医師芸人しゅんしゅんクリニックPとおばあちゃん芸人、おばあちゃんによるコラボセッション
14:45 Knot Programインパクト起業家ピッチコンテスト
16:45 ピッチコンテスト表彰式・閉会
会場:コングレスクエア日本橋
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所 presented by 東京ウェルネスインパクトファンド
Knot Program参加のインパクト起業家6名によるピッチコンテスト
Knot programは、ヘルスケア領域における課題解決を行い、かつ、しっかり儲ける「インパクト起業家」を育成するプログラムです。最終成果を発表する本ピッチコンテストでは、6名の参加起業家が約7ヵ月間磨き上げてきたビジネスプランを発表します。審査員には、インパクト投資業界をリードする投資家の方々を迎えました。
【コンテスト登壇者(敬称略)】
1.発達障害を持つ子どもと家族を支えるデジタル療育プラットフォーム『Uchimaru』
鈴木 円香(株式会社COMARU)
2.高齢者に「美と健康」を通じて喜びと安心を届ける『Rings Care』
大平 智祉緒(株式会社RingsCare)
3.企業と医療従事者を繋げて従業員の健康に伴走するサービス『Carefor』
高山 耕輔(株式会社EightLab)
4.介護施設の食体験向上を支援する『EiyoHub』
酒井 和也(Reinvent health株式会社)
5.親友より繋がるAIチャットでメンタルヘルスと自律的な人生をサポート『B-selfチャット』
鶴田 桂子(株式会社BANSO-CO)
6.高齢者施設への遠隔生活リハビリテーションサービス『TherapEase』
伴 大輔(株式会社TherapEase)
【審査員(敬称略)】
中村 多伽|株式会社taliki代表取締役CEO / talikiファンド代表パートナー
中野 哲治|SMBCベンチャーキャピタル 投資営業第一部長
山中 礼二|KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー/グロービス経営大学院 教員
堤 世良 |株式会社DGインキュベーション シニアプリンシパル
中山 悠里|アニマルスピリッツ合同会社 ディレクター
起業家6名は、5月のキックオフ合宿後、5回に亘って定例会を重ね、ビジネスプランとピッチ内容を磨き上げてきました。いよいよ本番です。
ピッチの審査項目は、以下の5つです。
1.課題の解像度の明瞭さ
2.課題に対するサービスやプロダクトのフィット感、適切さ
3.儲かりそうか(持続的にサービス提供できる仕組みなのか)
4.生み出すアウトカムやインパクトの確からしさ(有用さ、意義や意味の深さ、社会をより良くするのか)
5.スペシャルポイント(各審査員が投資検討時に見ている独自基準)
発表時間はピッチ7分と質疑応答7分。全員のピッチ終了後に「最優秀賞」が決まります。なお、今回は新たな試みとして「オーディエンスインパクト賞」も創設。観客のみなさんにQRコードから「オーディエンス投票」も行っていただきます。
1.発達障害を持つ子どもと家族を支えるデジタル療育プラットフォーム『Uchimaru』
鈴木 円香(株式会社COMARU)
トップバッターの鈴木円香氏は助産師エンジニアで4人のお子さんの母。わが国では10人に1人が発達障害を持って出生し、その数は年々増加傾向にあります。鈴木氏が着目するのは親の子ども理解を支援する「ペアレントトレーニング」、略して「ペアトレ」。
「多くの療育機関ではスキルやリソース不足により、親支援の重要性がわかっていながらも親支援ができていません。親も子どもの特性や療育の意義を理解しきれていません。私はこれまで、親として療育を利用し、支援者として現場に立つことで、この両方の課題を実感しました。課題解決のためにオンラインで親支援を提供するプログラム、『Uchimaru』を開発しています」
『Uchimaru』は、療育機関を利用する親が無料で受けることができるサービス。サービス提供者は利用料収入
を収益とし、療育機関は家族支援加算(2024年の法改正で親支援が加算対象に)を受け取るというモデル。「3歳から12歳の軽度発達障害の療育機関は全国に1万2000施設、その30%を取りに行きます!」
今後はプログラム開発を進め、実証事業を行い、3年以内に50施設への導入を目指す予定だといいます。「発達特性があってもなくても、誰もが尊厳を持ち自立できる道を切り開きます」と力強く宣言する鈴木氏です。
〈質疑応答〉
――対面ではなくオンラインでペアレントトレーニングを行う意味、意義は?
「私自身ペアトレを受けましたが、時間を捻出するのが非常に大変でした。昼の30分、夜の30分などの短い単位で参加できるのがオンラインのメリットです。また、オンラインであれば全国各地の、自分と同じような境遇の方とつながることもできます。オンラインの親支援が加算対象になったということもあり、ぜひコミットしていきたいと思っています」
――効果は検証され証明されているのか? 効果はどのように見ていく予定か。
「今回のプログラムは、主にペアレントトレーニング(子どもへの対応方法の学習)、ペアレントプログラム(子どもの発達に関する基礎知識)、ピアサポート(親同士の交流)から構成され、一つひとつにはエビデンスがありますが、3つを統合したエビデンスは今のところありません。効果は長期戦で見ていき、親を支援し、育児負担を軽減し、子どもがどのように成長するかといったところを評価していきます」
2.高齢者に「美と健康」を通じて喜びと安心を届ける『Rings Care』
大平 智祉緒(株式会社RingsCare)
続いて登壇したのは、看護師でメイクセラピストの大平 智祉緒氏。看護と美容を融合させた「美整容」サービスを高齢者に届けています。
中3のときに父を亡くしたことから看護師を目指し、祖母が余命宣告されたときに家族で写真撮影することを提案したという大平氏。「お化粧した祖母はベッドの患者の姿からいつものかっこいい祖母に戻りました。美がもたらしてくれた明るさと喜びに、私自身も救われました」
最初は個人のボランティア活動から開始し、7年間活動ののち、1年半前に法人化。800名に美整容を届けるなかで気づいたのは、「きれいになるから元気になるのではなく、人と人が目を見て肌に触れ、笑い合い、鏡を見ながら整えていくというこのプロセスこそが、医療や介護を受ける人たちにとって“大事にされている”ことを心から実感できる時間になるということ。また、家族にとっても癒やしとなり、今を受け止める時間になる。これが『Rings Care』の最大の価値です」
高齢化社会が抱える複雑化した課題に対して包括的にアプローチをしていく『Rings Care』。外見の美を追究した美容サービスとは一線を画し、「心と外見の両面を整える美整容サロン」を地域に開設、新たな美容市場を創出する、とアピール。訪問型とサロン型サロンで化粧療法を実施し、1年間で4500名の高齢者に笑顔を届けることを目指します。
「私たちの現在の訪問サービスは継続率91%。この満足度と信頼を活かし、さらに成長を加速させます。最後まで自分らしく美しく生ききれる社会を実現します」と結びました。
〈質疑応答〉
――ただメイクできる人が化粧を行う、というだけだと競合優位性が低いのでは。ナンバーワンになっていくために想定されていることはあるか?
「メイクセラピストは医療介護従事者で、私自身、看護師たちとともに外見ケア研究会を組織しエビデンスの構築を進め、2年前から学会での発表もさせていただいております。看護ケアとしての必要性のデータをとっていくこと、特に化粧療法の領域ではプロセス面に着眼しているところはまだ少ないのでその視点から研究をしていきたいと思っています」
――訪問、というと高齢者に何かを売りつけるというイメージを持つ方もいるかもしれないが、その疑念の払拭のために行っていることは?
「私たちは医療介護従事者ということもあり、施設や訪問看護ステーションからの紹介という形で医療介護ネットワークを活用しています。お金を払ってくださるのも大半がご家族なので信頼をしていただいています」
――サービス提供対象に、高齢者以外という道も考えているか?
「最も大切にしたいのが高齢者のエンドオブライフを豊かにすることなので、そこをメインにしていきたいという思いがあります。次の一歩としては健康障害を抱えている高齢者、将来的には若い方のエンドステージであったり他の慢性疾患の方の外見ケアへと広げていける可能性はあると思います」
3.企業と医療従事者を繋げて従業員の健康に伴走するサービス『Carefor』
高山 耕輔(株式会社EightLab)
「今、肩こりや腰痛のある人、手を挙げてください!」という呼びかけから始まった高山耕輔氏のピッチ(会場の8割が手を挙げた)。21歳で柔道整復師の免許を取得し、整体院やパーソナルジムの運営を行ってくる中で、「自分の職場に整体師がいたらどんなにいいかとみなさんがおっしゃること、また、不調があっても放置する人がほとんどで、仕事や育児で時間がない、そもそも健康にかけるお金がない、何をしたら良いかわからないという人がたくさんいることを実感しました」
そこで高山氏が開発したのが、企業向け健康経営支援事業『Carefor』。医療国家資格を持った専門家が企業に出向き、最高品質のケアを15分1クールで提供。従業員にカウンセリングを行いボディケアとコーチングを実施、健康データを企業にフィードバックするというサービスです。
「肩こりや腰痛を抱える人は、運動や睡眠、食事といった解決策はわかっているけれどなかなか手を付けません。一方、ボディケアであれば受け身であるので、より多くの人に受けてもらうことができます」と説明。
「リピート率80%、行動変容率86%」、「昨年比200%の成長率」と直近の実績も示し、「働く人の健康が当たり前になるような社会を築いていきます」と宣言し締めくくりました。
〈質疑応答〉
――本当に忙しい人は15分といっても時間を確保できないのではと思うがどうか? また、健康度を高めるというところで具体的な定義、指標とするものは?
「現状、従業員の方に来てもらいやすいよう15分1クールとしています。しかし、おっしゃるように忙しい方は来られないので、提供先企業の方とお話をして、メンタル不調になる可能性や生産性の低下について理解してもらい、強制的に時間をとっていただけるようお願いしています。また、指標とするものについては企業の健康組合と連携し医療費の変化を見たところ、昨年1年間で約10%の削減に成功しました。企業によっては費用を従業員が負担するパターンもあるので、このサービスをより低価格にし、従業員に対して無償で提供できるビジネスモデルを目指します」
――セラピストのクオリティの担保が大事ですよね。そこが担保されていないと、その後たまってくるデータの価値もなくなってしまいます。登録されている整体師さんは収入の何割ぐらいを御社のサービスに依存しているのか、そのあたりの解像度を上げたいです。
「セラピストは全員医療系の国家資格者に限定しています。最も多い層は、どこかに勤務されていて空いている時間を活用されている方です。面接を通過後、座学と技術テストののち研修を行い、テストに合格した人が初めて企業に行くことができます。企業に行った回数、企業からの評価表示により報酬が上がっていくシステムをとり、この報酬まで到達したら次の研修を受ける、というふうに学びと技術が報酬につながる仕組みを作っています。また、全国各地にセラピストがいるので、全国に支店のある大企業のニーズにも対応できるところが強みであると考えています」
4.介護施設の食体験向上を支援する『EiyoHub』
酒井 和也(Reinvent health株式会社)
続いての登場は、10年以上救急医として勤務の後、在宅医療に携わるようになった酒井和也氏。「在宅医療で見る景色は病院とは全く異なっていました。病気を治すのは当然のことながら、高齢者の動く・眠る・食べるの3つを維持することが非常に求められる。動く・眠るに関してはリハビリや薬といった解決法がありますが、食べることだけは解決できない患者さんが多く、私も多くの方を亡くしました」
フレイルやサルコペニアと密接につながる高齢者の低栄養という課題解決のために2年前に起業をした酒井氏。ただし、3食しっかり栄養あるものを提供している介護施設でも低栄養である方が多く、「出されたものばかり3食食べるのはしんどい」という声が多いことに気づいたといいます。「私たちも学校の給食より、お小遣いを握りしめて購買で好きな物を買って食べる体験にワクワクしませんでしたか?」と酒井氏は問いかけます。
また、高齢者向けの食品を作るメーカーにヒアリングをすると「販売チャンネルがない」という悩みを抱えていた――そこで家族と施設を繋ぐプラットフォームとして開発したのが、面会予約と購入、コミュニケーションを1つのアプリで完結させる『EiyoHub』。入居者に、見た目や味にもこだわったおいしい食体験を提供するサービスです。
家族は、スマホでいつでもどこでも面会予約をすると同時に差し入れを購入することが可能に。介護施設で差し入れの店頭販売トライアルを行った結果、1カ月後に購入者の体重が1.7kg増加したという実証実験結果も示しました。「今後、全国の介護施設への展開とともに、海外に日本の高品質な介護フードを届けるプラットフォームを目指していきます」と宣言しました。
〈質疑応答〉
――低栄養という課題を解決したとき、一番うれしいのは誰かな? と言うところについてなのですが、意志決定者として重要な介護施設側からするとオペレーションが増える、誤嚥事故が起こったら困るなど、そもそも人手不足の中、余計な作業が増えることがどこまでうれしいのかなと思っています。介護施設はどのように関わってくれるのでしょうか。
「サービスを受けて一番うれしいのは高齢者ご自身で、最後まで好きなものを食べられるという意義があります。おっしゃる通り、介護施設に何かを持ち込むことに関してはハードルが高く、だからこそ私たちは介護DXというという文脈で、面会予約というストーリーでお話を持っていきます。実証実験でも、当初は難色を示されていた施設さんも、入居者が喜ぶことがわかると施設で店頭販売を継続しださいました。サービスの価値に気づいていただければうまくいくと考えています」
――どこに満たされていないニーズがあるのかを理解したいです。一般家庭だとスーパーで売られている介護食を入手でき、介護事業所でも嚥下食や介護食を作ることができると思うのですが。また、商品の品質保証についてはどなたがチェックしていますか。
「介護職の定番であるドロドロになった瓶詰めのものではなく、見た目や味にこだわった介護フードを提供している国内メーカーのものをお届けする、というのが私たちの満たしたいニーズです。日本全国に素晴らしいメーカーがありますが、良い商品が必要な人に届いていない実状があります。品質保証については、私自身を含め、在宅医療や訪問栄養指導を行っている栄養士さんのご協力のもと、商品のセレクトをしています」
5.親友より繋がるAIチャットでメンタルヘルスと自律的な人生をサポート『B-selfチャット』
鶴田 桂子(株式会社BANSO-CO)
5人目の登壇者は、鶴田桂子氏。弁護士として多忙な日々を送る中、メンタルヘルス不調に陥ったときに孤独や不安感を抱えた体験から「私のような人は一人もいなくていい、メンタルヘルス不調をこの世の中からなくしたいと強く思いました」と語ります。
メンタルヘルスケアのサービスは数あるものの予防的なケアをするサービスはなく、雇用側の企業も健康な人に平時からの予防的ケアは必要ない、という考えが根強いのが現状。しかし、アメリカでは「メンタルヘルス不調の予防的ケアに1ドル払うと2~10ドルのコスト削減効果がある」という報告も。労働者の50%がメンタルヘルス不調のハイリスク群であり、企業もそのコストを負っている。この課題を解決するのが『B-selfチャット』である、と鶴田氏は説明します。
『B-selfチャット』サービスは「24時間AIが寄り添う」、「その人にとって心地よい会話で寄り添うパーソナライズ」、「認知行動的アプローチに基づき不調の予防段階でキャッチする」という3つの特徴を持ち、トライアルの結果、32名中2名が熱狂的ファンになった、と説明。
「私たちの強みは高品質なカウンセリングデータです。これまでカウンセリングを通して80%以上のユーザーの行動変容を実現し、88%のユーザーがサービスに満足してくれています。従業員のストレス軽減、メンタル不調の予防、企業にとっては離職者数の減少、コスト削減を実現します」とアピールしました。
〈質疑応答〉
――AIでメンタルといえば「Awarefy」がありますが、直球ですが「Awarefy」との違いを教えてください。メンタルヘルスのマーケットは巨大市場なので、例えば産後うつなど特定の市場セグメントにフォーカスすることによって大きなロジックが生み出せるのでは、と個人的には思っています。
「Awarefyは素晴らしいサービスだと思っています。私たちは健康な人が何も問題意識を持っていない状態でスムーズに開始し、毎日続けられるハードルの低いサービスである、というところを違いとして意識しています」
――メンタルヘルス系のサービスの難しさは不調の予防のタイミングというタッチポイントを作りにくいところである、という感覚があります。今のご提案の中で、なぜこのサービスだと不調の予防段階でアクセスできるのかについての想像がつかなかったので、詳しく教えていただけますか。
「私たちは既存サービスとして企業に対する人材開発サービスを提供し、効果を上げるために最低で月に1回、心理士がフォローアップをしています。そのときにストレスレベルが高い人を抽出しケアを提供するという仕組みを作っており、AIでそれをできないかと考えています。AIを使って毎日、心の健康度や体の健康度を入力してもらったり、ネガティブなキーワードが増えてきていることをこちらで把握し、早期からの働きかけをしていくことを考えています」
6.高齢者施設への遠隔生活リハビリテーションサービス『TherapEase』
伴 大輔(株式会社TherapEase)
ピッチのラストを締めくくるのは、遠隔生活リハビリテーションサービス『TherapEase』を展開する伴 大輔氏。
サービス開発に至ったきっかけは、作業療法士として働いているときに「トイレができないのにシルク・ドゥ・ソレイユを観に行きたいなんて言えない」という高齢者の話を聞いたこと。「高齢者の“やりたい”を諦めさせている社会を変革したい」という思いを語りました。
高齢者がやりたいことを諦める原因は、「生活リハビリテーションの手薄さ」と「対面リハビリテーションの限界」にある、と伴氏は分析。ちなみに生活リハビリテーションとは、歯磨きや料理など一人ひとりの生活目標を決めて実現していくリハビリテーションのこと。「身体機能障害のリハビリのみをして身体機能が改善しても、生活改善に直結しないことが多い。生活に直結するリハビリテーションが必要である」という学術データもあわせて紹介しました。
訪問リハビリテーションでは歩行移動プログラムなどが優先され、生活リハビリテーションの優先度が低いのが現状。そこで遠隔で生活リハビリサービスを提供するのが『TherapEase』です。最初に情報共有を行った後、Zoomで目標設定、LINE BOTで2週間遠隔リハビリ、再度Zoomで目標設定……というふうにリハビリ支援サイクルを回します。「遠隔であれば移動時間が必要なく価格を低く抑えられる。介入頻度が上がり毎日行えることも大きなメリットです」
実証実験では92%が効果を実感。お金を出してでもサービスを受けたい、という人は88%、という結果が得られました。
「最終的には全国でこのサービスが選択肢の一つとなることを目指します」と伝えました。
〈質疑応答〉
――このサービスのユーザーは誰で、毎日行ってもらうためにどのような工夫をされていますか?
「ユーザーは高齢者で、最近は簡単な操作であればLINEを使える方も多いです。ただ、施設入居者だと施設の方やご家族など、どなたかにサポートしていただくことを想定し、施設にインセンティブを渡すという設計も考えています。どのように毎日行うかについては、やはり生活に特化したリハビリなので、例えばお風呂に入ることが目標であれば入浴の少し前に注意点を確認する、といった設計です。施設にヒアリングをすると、半分以上の方は少し手間になっても生活リハビリを支えたい、というご意見を持たれています。高齢者施設もマインドは同じだと思い、できるだけ施設側のご負担をかけないように配慮しながら進めていければと思っています」
――このサービスは1対1ですか?それともまとめて何人かを、ということもあるのでしょうか。
「そこは1対1にこだわりたいと思っています。移動費などを含めて減らしていけば十分にまかなっていける金額だと試算しています。日々の生活において、単純に手順や方法、やり方が間違っていて、もう少しこうやれば効率的にできるのに、というところを我々作業療法士は知見として持っているので、ご本人にも介護者にもやり方をお伝えしてリハビリを進めていきたいと考えています」
6名の起業家それぞれが実体験をもとに専門領域も活かし、課題解決に向けて叶えたい世界が鮮やかに描かれたピッチ内容でした。ピッチ後の質疑応答も、笑いを交えながらもズバズバと切り込むものばかりで、「こんな視点を加えればもっといいサービスになる」というヒントにあふれていました。
表彰式
6名の起業家と審査員が舞台の上に集まり、司会の青木氏から恒例の「結果、発表~~!」。
まず、「オーディエンスインパクト賞」は、高齢者に「美と健康」を通じて喜びと安心を届ける『Rings Care』を提供する大平 智祉緒氏に決定!
「休憩中もたくさんの方に声をかけていただきました。みなさんが大切なご家族のことをイメージしながら聞いてくださったのだな、と思っていました」と大平氏。
そして、『Healthcare Venture KNOT 2024』最優秀賞は――またしても、大平氏。会場は拍手に包まれます。
大平氏は、「この半年、メンターとして石井先生に併走していただきましたが、厳しい指導に正直、嫌になってきてしまったときも(笑)。でも、まさに在宅医療の現場で臨床を知り患者さんを見ておられて、起業家としての顔も持つ石井先生が併走してくださったからこそ、ここまでブラッシュアップすることができました。これまで個人でやってきた『Rings Care』が社会の『Rings Care』になるよう進んでいきます」と喜びを語りました。
審査員からは、「他の発表者のみなさんもそれぞれ素晴らしく、僅差だったと思います。当たり前に困っているけれど誰もビジネスとして解決できていない、むしろ課題が深くなっているというところにアクセスされているのがみなさんです。なぜ今までいろんな人が挑戦しても解決されてこなかったのか、というところにぜひ着目し、プランを作っていただけるとよりクリティカルな解決、ユニークなプランになるのではと思います」というアドバイスも投げかけられました。
司会の青木氏は「社会を少しでもより良くするような、次の世代に対しての投資をする、次の10年を作るのがまさに我々の投資であると実感しました。襟を正してやっていきたいですね」とコメント。この日、起業家たちの魅力あふれるピッチを見た誰もが、描かれた未来への思いに心を揺さぶられ、「自分も自分のフィールドでがんばろう」と思えたのではないでしょうか。
Text:柳本 操
photo:小久保 克海