医療イノベーションの最前線、現場発の挑戦が描く未来|HVK2024開催報告 <出展会場>

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医療イノベーションの最前線、現場発の挑戦が描く未来|HVK2024開催報告 <出展会場>


2024年11月23日に開催されたHealthcare Venture KNOT 2024、今年のテーマは「みんなで作る、みんなが作るノットの場」。出展会場では、より良い医療をつくるスタートアップや魅力ある医療機関が事業・プロダクトを紹介するポスターを掲示。ポスターを通じて、スタートアップや医療機関、参加者との交流を図りました。壁面に整然と並ぶポスターの数々が、医療イノベーションの最前線を物語っています。本記事ではイベント当日の出展会場の様子をレポートします。


イベント概要

Healthcare Venture KNOT 2024
開催日時:
11月23日 12:00~17:00
会場:コングレスクエア日本橋
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所 presented by 東京ウェルネスインパクトファンド

▼ 会場マップ

▼ 出展企業・医療介護福祉事業者

・メドテリア株式会社
・株式会社Awarefy
・株式会社当直連携基盤
・おうちの診療所
・株式会社aba
・ウンログ株式会社
・公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 臨床医学研究所
・ものづくり医療センター powered by足立慶友整形外科
・医療法人 富田浜病院
・医療法人和会 武蔵台病院


デジタルで医療現場を支える

医療のデジタル化は、単なる効率化を超えて、医療の質そのものを高める段階に入っています。

メドテリア株式会社が提供するクラウド&コミュニティプラットフォーム『Medteria』は、その好例です。大学内、病院内におけるナレッジの共有やディスカッションを効率的に実施できるワークスペースを提供することで、医療従事者や医療系学生の知識・技術の向上を支援するとともに、最新の情報や新しい仲間との出会いの場を創出。医療全体のエンパワーメントという大きな目標に向かって取り組んでいます。


心の健康という現代社会の重要課題に挑戦するのが、株式会社Awarefyです。診療時間内だけでは患者さんのセルフケアを十分にサポートできない課題に取り組み、診療時間外でのケアサポートを目指しています。心理学とAIを組み合わせたスマートフォンアプリを通じて、ユーザーは自己理解を深め、心のメカニズムを学び、新しい習慣を身につけることができます。テクノロジーを活用した心のケアという新しいアプローチは、多くの来場者の関心を集めていました。


在宅医療を支える新たな試み

在宅医療の現場では、持続可能性という大きな課題に向き合う革新的な取り組みが始まっています。

M3グループである株式会社当直連携基盤は、「在宅医療を、チームプレーに。」というバリューのもと、在宅医療機関向けの夜間休日往診支援という日本初の事業モデルを確立。専門スタッフ「メディカルバディ」と医師による2名1組の「バディ往診®」という独自のアプローチで、患者や家族の文脈、主治医との関係性を大切にしながら、医療者の負担軽減を実現しています。


同じく在宅医療の分野で注目を集めているのが、おうちの診療所の取り組みです。東京都目黒区と中野区を拠点に、24時間365日体制で地域の在宅医療を支える同院は、がん性疼痛の緩和ケアにも注力。在宅医療の質指標「QI-8」を独自に設定し、ICTを活用したDX推進で効率的な業務体制を構築しています。患者を「治療」するだけでなく「暮らし」を豊かにするという理念のもと、医療スタッフ間および患者との「関係の質」を重視した新しい在宅医療のモデルを提示しています。

おうちの診療所のポスター前には、同院の医師である石井洋介氏が代表を務める、株式会社omnihealの紹介も。同社が運営するヘルスケアコミュニティーSHIPの取り組みや、ACPを啓発するボードゲーム「エンディングゲーム」、療育領域で使えるボードゲーム「ゼツミョーション」などが並べられており、実際に手に取る来場者の姿が印象的でした。


介護や予防医療のイノベーション

介護や予防医療の分野では、日常生活に密着した革新的なアプローチが注目を集めています。

株式会社abaは、排泄のにおいをセンサーで検知し、パソコンやタブレットに通知する排泄センサー「Helppad2」を開発。これにより不必要なおむつ確認を減らし、交換のタイミングがわかるため漏れが起きづらいという介護する方・される方の双方の負担軽減につながっています。この画期的な取り組みは、IVS2023 LAUNCHPAD KYOTOでスタートアップ京都国際賞・オーディエンス賞を受賞するなど、高い評価を得ています。


「すっきり革命を起こす!」という大胆なスローガンを掲げるウンログ株式会社は、”観便”と”腸活”を組み合わせた腸内環境改善プラットフォーム「ウンログ」を展開。ユーザー110万人、うんち記録数1.25億件、腸内細菌解析数4,000件という膨大なうんちデータを活用して、うんちのお便りで健康状態をセルフチェックできます。トイレという日常的な場面から健康寿命の延伸や医療費の抑制という社会課題の解決に挑戦しています。


医療現場発のイノベーション

医療機関自身による革新的な取り組みも、大きな注目を集めています。

公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 臨床医学研究所は、治験支援や臨床研究の基盤整備にとどまらず、AMEDの医工連携イノベーション推進事業に2022年度から採択されたことを契機に、医療機器開発に取り組む企業や起業家に対して、当該製品の事業化・上市までの幅広い事業化支援を展開しています。また、医療やヘルスケアに関する課題に取り組む事業者、起業家、研究者らが協業できる場として、医療機器開発コミュニティ「HealthTechHub四国」の立ち上げ、ヘルスケアのみを対象にしたピッチイベントの開催や、医療機関におけるユーザビリティ評価支援の様子についてポスターで紹介されていました。


足立慶友整形外科は、2019年の開業からわずか4年で年間延べ10万人が受診する人気クリニックに成長。「正しい医療の提供」「また行きたくなるサービス」「スタッフから笑顔になれる環境」という3つの理念に基づく取り組みが、多くの医療関係者の関心を集めています。同院が手がける「ものづくり医療センター(通称:もいせん)」では現場の課題を医療者が自分で解決するとして、医療とテクノロジーを駆使したプロトタイピングスクールを開始。2025年1月からは第7期生の開講を予定しており、2月23・24日にはハッカソンも開催予定です。


100年以上の歴史を持つ富田浜病院は、急性期・地域包括ケア・回復期リハビリテーション病棟を備えたケアミックス病院として、予防から医療、介護、福祉まで一体的な支援を展開。「患者さんとスタッフが喜びを共有できる温かい雰囲気」という理念のもと、地域医療の新しい形を追求しています。院内では「ブランディングチーム」「介護士専門部署」「人生会議」などさまざまな取り組みを行っています。特に「院内MBA」「人材マネジメント」を通じて次世代リーダーのマネジメントスキル育成や、「医療DX」「アプリ開発」で臨床的な医療の質向上、業務効率向上への取り組みを続けています。


整形外科を中心に展開する武蔵台病院は、保守的とされる医療介護業界に新風を吹き込んでいます。急性期治療から在宅復帰後の維持期まで質の高い医療介護サービスを提供しながら、働きやすい環境づくりを推進。医療介護を「楽しい」と感じられる職場づくりを通じて、地域と共生する新しい医療機関の姿を示しています。また、骨粗しょう症予防や治療、フォローに関する取り組みの紹介や地元の和菓子屋さんとコラボレーションした「骨こつ娘」はコミュニケーション会場内でも提供され、来場者の目を惹いていました。


未来を描く対話の場として

ホワイエ出展会場では、ポスター展示を前に各社担当者との活発な対話が展開されていました。特に印象的だったのは、異なる立場の参加者が「より良い医療の実現」という共通のゴールに向かって、率直な意見を交わす姿です。医療現場のニーズとテクノロジーの可能性、伝統的な医療の知見と革新的なアプローチ―それぞれの強みが交わることで、医療の未来像がより具体的に見えてきます。

単なる展示会の域を超えて、医療の専門性と技術革新、理念と実践、個別の取り組みと社会全体の課題、さまざまな要素が交差する中から、新しい医療の形が確実に生まれようとしている様子を感じることができました。

撮影=兼子 真太
取材・文=白石 弓夏