インパクト起業家4名が熱さマックスでピッチ! ヘルスケアベンチャーノット2025ピッチコンテスト開催報告

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インパクト起業家4名が熱さマックスでピッチ! ヘルスケアベンチャーノット2025ピッチコンテスト開催報告

2025年11月15日、キャピタルメディカ・ベンチャーズとおうちの診療所は『Healthcare Venture KNOT 2025』を開催しました。8回目となる本イベントは、“医療者とスタートアップをつなぐ” をコンセプトに2017年から開催。医療・介護現場とビジネスサイドが互いの考え方や想いを学び合うことで、現場ニーズに合ったヘルスケアビジネスの創造を目指しています。

今回の参加者数は459名。医療/介護/福祉事業者、スタートアップ、事業会社/コンサル/士業、学生、VC等投資家、自治体/教育機関など多様な職種のみなさんが一堂に会しました。司会の青木武士氏と石井洋介氏は「今年のテーマは、未来にノット(つなげる)していきましょう、です!」と宣言しました。


メイン会場では、ヘルスケアの未来をテーマにした3つのトークセッション、そして締めくくりは、インパクト起業家育成プログラム「Knot Program 2025」に参加する起業家たちによるピッチコンテストを開催。出展会場では、いま話題のヘルスケアスタートアップや医療機関がブースを展開し、体験コーナーも用意、来場者との対話を重ねました。コミュニケーション会場では、今年も「ソーシャルグッドな飲食屋台」にて全国各地の就労支援事業所などによるクラフトビールやトマトジュース、スイーツなどを取りそろえ、トークイベントの登壇者と交流ができるマッチングブースでは笑顔とともに会話が弾みました。

本記事では、イベント終盤の1時間15分に及ぶ白熱のピッチコンテストの様子をお伝えします。4名の起業家たちが本番に向けて磨きあげてきたビジネスプランを7分間の枠内に詰め込み、熱い想いを語ります。


イベント概要/メイン会場タイムテーブルHealthcare Venture KNOT 2025

開催日時:11月15日(土) 12:00~17:30
タイムスケジュール:
12:00 開会
12:15 トークセッション①医師起業家が切り拓くヘルスケアの未来~三世代が語る挑戦と未来ビジョン
13:10 トークセッション②ヘルスケアビジネス最前線~現場と市場をつなぎ価値創出へ~
14:00 スポンサーピッチ
14:20 トークセッション③病院組織をアップデートする~HR戦略の新しいあり方の探求~
15:15 Knot Programインパクト起業家ピッチコンテスト
16:35 審査結果発表/表彰式
会場:コングレスクエア日本橋
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所


インパクト起業家4名によるピッチコンテスト

Knot programは、ヘルスケア領域における課題解決を行い、かつ、しっかり儲ける「インパクト起業家」を育成するプログラムです。最終成果を発表する本ピッチコンテストでは、起業家たちがここまで磨き上げてきたビジネスプランを発表します。審査員には、インパクト投資業界をリードする投資家の方々を迎えました。

【コンテスト登壇者(敬称略)】
1.シニア向け完全栄養食ブランド「Me TIME FOODS」 古津瑛陸(株式会社LacuS)
2. 視覚障害学生を対象としたオンライン個別塾ブイリーチ 川本一輝(合同会社WillShine)
3.第3者による家族のACP/ALP支援サービス「オヤシルインタビュー」 武田勇(オヤシル株式会社)
4.介護施設向け経営支援ツール「みちケア」を活用した生産性と経営効率の両立 梅谷雄紀(シスタ株式会社)


【審査員(敬称略)】
・小原満美|Funds Startups株式会社/Funds Venture Debt Fund Principal
・黄春梅|インパクト・キャピタル株式会社代表取締役/新生インパクト投資株式会社代表取締役
・郭 夏|JPインベストメント株式会社 グロース投資部 プリンシパル
・中村 多伽|株式会社taliki代表取締役CEO / talikiファンド代表パートナー
・山中 礼二|KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー/グロービス経営大学院 教員


起業家4名のピッチコンテスト、いよいよ本番です。

社会を変えようと尽力する起業家の本気のピッチに会場は満席状態に。ピッチの審査項目は、以下の5つです。

1.課題の解像度の明瞭さ
2.課題に対するサービス/プロダクトのフィット感、適切さ
3.儲かりそうか(持続的にサービス提供できる仕組みなのか)
4.生み出すアウトカムやインパクトの確からしさ(有用さ、意義や意味の深さ、社会をより良くするのか)
5.スペシャルポイント(各審査員が投資検討時に見ている独自基準)

発表時間はピッチ7分と質疑応答7分。全員のピッチ終了後に「最優秀賞」が決まります。「オーディエンスインパクト賞」では、観客のみなさんにQRコードから「オーディエンス投票」を行っていただきます。


1.シニア向け完全栄養食ブランド「Me TIME FOODS」 古津瑛陸(株式会社LacuS)

トップバッターは、予防医療から終末期患者に特化したフードテックブランドを展開する古津氏。低栄養状態に至っている高齢者は推計で約978万人。通常食が食べられなくなると栄養補助食品や医薬品、経管摂取、さらに胃ろうへと段階が進み、並行して食体験が低下し、低栄養状態になることが死亡リスク上昇、健康寿命が縮められていく。この「低栄養」を食体験そのもので解決しようとするのが古津氏です。

噛む・飲み込むが困難な方、食欲不振の方向けに自社開発したのが、栄養とおいしさを両立した完全栄養食アイス「Me ICE(ミーアイス)」。実際に、終末医療を受け食事を拒否した方や口腔がん治療中の方にアイスをとっていただき、1日あたりの総摂取カロリーが上がったことなどの事例が紹介されました。

「私たちは調剤薬局や介護事業所を軸に、自社・他社ECにつなげるビジネスモデルを実施しており、今後はチョコレートやスープなど嗜好性に富んだ商品に広げます。定型的な治療プロトコルから脱却し、食体験を軸に生活の質を上げていく。国内で1400億円から1.5兆円のマーケットサイズがあり、5年で100億円規模に積み上げていきたいと考えています」と具体的な数字とともにアピールしました。

〈質疑応答〉

――なぜアイスクリームという形態に辿り着いたのか、開発の観点から教えてください。

「終末期の患者さんが『最後の一口にガリガリ君を食べたい』とおっしゃったというエピソードが話題になっていたことをきっかけに着想しました。現場に足を運びながら、嚥下しやすいように、アイスが溶けた後もとろみを維持できる設計にし、食べきれる65mlの小さめサイズにするなど、工夫しました」

――今後事業として100億円規模まで拡大できるということでしたが、スケーラビリティについてどのようなプランを考えているか、具体的に教えてください。

「今期は5000万円に到達する予定で、来年度は月売り1000万円を目指しています。toBで介護事業所、調剤薬局に拡大し、経済的価値を高めていこうと考えています」


2. 視覚障害学生を対象としたオンライン個別塾ブイリーチ 川本一輝(合同会社WillShine)

続いて登壇したのは、視覚障害者向けのオンライン塾「ブイリーチ」を事業展開する川本氏です。川本氏は21歳の現役大学生でブラインドサッカーの選手でもあります。2歳のときに弱視になり、12歳のときに急激に視力が低下。当事者を取り巻く環境、また、教育界の課題として、点字を理解する人が周囲にほとんどいない、数学や英語などは内容が高度になると教える側にも高いスキルが要求されるが、学校の人事異動により定着しない、進路の選択肢があまりにも少ない、といった課題について話します。

「これまで、このような課題は“障害のある人の教育機会は少ないよね”という言葉で片付けられてきました。しかし、本当の課題は、勉強したいけどできない、見えない/見えにくい状況を深く理解し併走してくれる人が周囲に継続的にいない、ということです。学習の機会さえあれば、子どもたちの可能性はもっと広がるはずなのです」

川本氏は、全盲または弱視として勉強を重ねてきた講師とともに、オンライン塾を主宰。個別面談におけるコンバージョン率が100%であることや、中学生の生徒の学習へのモチベーションが維持され勉強の習慣化が実現した体験談が生徒自身の肉声で紹介されました。

「まずは勉強の習慣化をし、目指すキャリアに向かって歩む先輩との交流を通してキャリア選択のきっかけを作り、10年後には5000人が自分の選んだキャリアで働く状態を作ります」と川本氏は力強く宣言。さらには聴覚障害や学習障害の子どもたちも視野に入れていく、と将来の展開を語りました。

〈質疑応答〉

――現在の学習塾のままでは狙える市場規模が小さいかもしれません。塾の次のキャリアに関するビジネスでも事業展開すると、もっと大きい市場が狙えるかもしれません。そのあたり、お考えを聞かせてください。

「キャリア選択のきっかけ作りまでは現段階でできているのですが、その後のサービスや事業を作る必要性については、まさに考えているところです。就労現場の課題として、離職率の高さがあります。会社に入ったものの、コピーとりなど単純作業ばかりで本人のモチベーションが上がらない、雇用側も何をやらせたらよいかわからないという問題があり、両者の調整やアドバイスができそうだ、と考えています」

――盲学校などの公的システムではなぜ学びのニーズを満たせていないのでしょうか。

「盲学校は日本に50校ありますが、人事異動が他の県立学校と同様に行われるため、例えば点字が使える数学の先生が異動してしまうと、新たな先生が点字を修得されるまで1~2年間かかり、その間、生徒にとっては十分な学習ができなくなるのです。行政が調節してくれるのが理想ですが、スピード感を持って課題解決するために私たちは事業展開しています」

――教材について工夫されていることは?

「今は主に点字を使い勉強している生徒が多いのですが、教材の数は少ない状況です。我々が自分たちでPDFなどを点字に訳し印刷しているので、最新でも2020年になってしまうという状況があります。教材を溜めていきたいと思っています」


3.第3者による家族のACP/ALP支援サービス「オヤシルインタビュー」 武田勇(オヤシル株式会社)

3番目の登壇者は、「後悔のない親子関係が続いていく社会」を目指し、「オヤシルインタビュー」のサービスを提供している武田勇氏です。武田氏は、「聞く」に関わる副業人材の育成や終活カウンセラーとして経験を重ねてきました。武田氏の調査によると、親に聞きたいことランキング1位は「もしものとき(医療、介護、死後)の意向」、2位が「親のこれからの願い、やりたいこと」である一方、介護、医療について「話せていない」人は7割にのぼります。深刻な状況になる前に対話をしておく必要があるものの、「真面目な話ほど、子どもの側は気恥ずかしく抵抗がある、親の側もまだ考えが進んでいないなどの対話の壁があります。私自身もそうです」と実感を込めて武田氏は投げかけました。

「オヤシルインタビュー」では、社会福祉士やプロコーチといった対話のプロが第三者としてじっくりと聞き、過去から遡りながら未来や備えについての考えを深めてもらいます。その結果を映像とテキストという形に残して家族で共有。話す内容に応じて、ソーシャルワーカーやFPなどの専門家につなぎます。実際に、疎遠になっていた30代と60代の父子が関係を取り戻した事例が紹介され、「具体的に、こういうことが起こるのか」と実感できました。

「事業承継や相続は生命保険会社、介護や医療であれば医療福祉法人というふうに、顧客紹介という形での連携や協業によるビジネス構築を進めています。初期は単価が高くニーズが顕在化しやすい事業承継・相続顧客にお届けして事例を生み出し、普及フェーズにつなげていきたい」と武田氏は将来ビジョンを語りました。

〈質疑応答〉

――「聞く」という、いわゆる原始的なサービスに辿り着くまでの変遷を教えていただけますか。また、オンラインカウンセリングの相場観である1万円ほどからすると、4万円以上という単価は高額な印象があり、ビジネスモデルとしてどのようにお考えですか。

「最初は手紙やウェブ版のエンディングノートを設定しましたが、書いてもらうスタイルだと答えを導きにくい、子どもが受け取りたい内容を受け取ることができない、という課題がありました。第三者という人が介在してこそ、プロセスの中で答えが醸成されていく。それが原始的なやり方に辿り着いた理由です。単価については、事業承継などで単価を上げる一方、必要な人に届けられる状況を作るために、生命保険会社で研修を行うなどして聞き手を増やすという環境作りを進めてカバーしていこうと考えています」

――顧客紹介における提携企業から見て、何が求められているのでしょうか。提携企業との会話の中で出てきたニーズはどんなものですか。

「まだニーズすら見えていないお客さんから話を聞く中で、もしものときの意向にも踏み込むことができるのがオヤシルインタビューです。隠れていた本心がぽろっと出たりする、そういった潜在層のニーズの顕在化に期待をいただいています。私たちは潜在的なものが顕在化していくプロセスに併走させていただいているので、提携企業からすると、顕在化のタイミングでお客さんに出会えること自体がメリットとなる、という声をいただいています」

4.介護施設向け経営支援ツール「みちケア」を活用した生産性と経営効率の両立 梅谷雄紀(シスタ株式会社)

ファイナルを飾ったのは、介護業界を「儲かる」ビジネスにするために、介護DXに取り組んでいる梅谷氏です。梅谷氏は創業から半年、150施設以上の介護施設を訪問し、「いい施設とそうでない施設の差を生むのは、マネジメントと経営です。そこに人とITの力を融合させる必要があると考えました」と話します。

介護施設は、過酷な労働環境と慢性的な人材不足という課題を抱えながら、「アナログ業務でも頑張る、人材不足でも頑張る、さらには仲間を忖度してしまう」という風土があると実感したそう。「シフト作成と調整に30時間以上かかる」という施設長の声を挙げながら、「AI領域、SaaS領域、BPO領域を組みあわせる。そのファーストアクションとして、シフト自動作成、業務分担の最適化を行う経営支援ツール『みちケア』で支援するSaaSビジネスを展開しています」

シフト作成の時間が約9割減り、心理的ハードルが減ることにより、年間700万円ほどの収益向上という経済効果が見込めることが見えてきた、と梅谷氏は語ります。

「我々の優位性は、現場主義で顧客解像度が高いこと、ティーチャーカスタマーの存在、投資家や専門機関との強力なパートナーシップ体制にあります。間接業務をITが担うことで、本質的な介護に向き合える時間を捻出し、最終的には介護事業をもっと誇れる仕事にしていくことを考えています」とアピールしました。

〈質疑応答〉

――現状のシフト管理ソフトではなぜダメなのか、また、御社のプロダクトが顧客にうまく刺さっていることを示すような導入事例を教えていただけますか。

「現状の介護施設で使われている介護ソフトは記録やレセプトの機能が中心で、外部サービスや施設業務を含めたシフト調整などはカバーしきれません。そこを経営支援ソフトで解決したいと考えました。現在、実証実験を進めているところですが、対面での調整がなくなり、ITが最適解を出してくれることによる心理的ハードルが下がったという評価が多いです」

――良いものだと分かっていても施設の管理側、現場側などいろいろな意見があり導入しづらい現状が介護施設にはあるかもしれません。これまでに、採用するまでにどのような困難があり、突破されたのか、その際の戦略などあれば教えてください。

「そもそも介護現場は、新たなものを取り入れる余裕も学習する時間すらもないという状況があります。我々は介護施設を基準に、その施設の売り上げをいかに上げるかということにチャレンジしこうと考えており、売り上げに必要な要素は何で、そこから逆算して問題のある部分を最適化すること、つまり現場と経営の課題を一致させ、現場にとって使いやすいものと経営にとってメリットがあることを組みあわせることがスタートラインになると考えています。また、人材の流動性が高いマーケットであり、この施設はこういったDXツールを使っている、ということが労働環境の働きやすさとしてのアピールポイントとなり、採用にプラスになる、というお話もいただいています」



4名の起業家それぞれが課題に対してそれぞれの背景も踏まえながら考えをめぐらせ、目指す世界を語る様子は会場の観客のみなさんの心をぐっと捉えました。また、ピッチ後の質疑応答では、業界のツボを心得ている投資家のみなさんが、各事業の推しポイントや伸びしろ、急所についても鋭く指摘し、それに対する起業家の回答も鮮やかでした。

表彰式

4名の起業家と審査員が舞台の上に集まり、司会の青木氏から恒例の「結果、発表~~!」。


まず、「オーディエンスインパクト賞」は、視覚障害学生を対象としたオンライン個別塾「ブイリーチ」の川本一輝氏に決定!

「こんな光栄な賞をいただけて大変うれしく思います。これからも自分の向き合う課題を一生懸命解決していきたいと思います。ありがとうございました!」と川本氏。

そして、『Healthcare Venture KNOT 2025』最優秀賞は――またしても川本氏です!

会場は拍手に包まれます。

川本氏は重ねて、「投資家のみなさんにも評価いただけて大変うれしいです。この賞に恥じないようにこれからも頑張っていきたいと思います」と、笑顔で喜びを語りました。


審査員のみなさんからは、「どの起業家も特異性の高い課題に取り組んでおり、お世辞抜きに甲乙付けがたかった。なかでも川本さんはダントツで課題の解像度が高いと感じました。課題の解像度が高いということは確実にプロダクトが売れるということ。ロイヤリティの高い顧客を捕まえることができ、広く展開できることができるということを示します」

「投資する以外のところでも他のネットワークの紹介や壁打ちもさせていただきますので声をかけてください。みなさん、ぜひこれからもがんばってまたアップデートの内容を聞かせてください」

といった温かい感想が寄せられました。

司会の青木氏は、「社会を変えるのは起業家のみなさんです。分析することは誰だってできますが、一歩目を進める尊さについては、私も含めて投資家のみなさんは大リスペクトしています。ぜひ、これからも社会をより良くするために、前に進み続けてください!」と応援のメッセージを投げかけました。

回を重ねるごとに“熱さ”も“考え抜き度”も高まっている感がある、ヘルスケアベンチャーノットインパクト起業家ピッチコンテスト。社会課題は山積みですが、嘆くのではなく「こんな解決、やり方がある」という突破口を見せてくれたピッチに、むくむくと力が湧いてくるような時間でした。

Text:柳本 操
Photo:上垣内 寛