福祉と食の出会いが紡ぐ、新しいヘルスケアの対話|HVK2024開催報告 <コミュニケーション会場>
2024年11月23日に開催されたHealthcare Venture KNOT 2024、今年のテーマは「みんなで作る、みんなが作るノットの場」。コミュニケーション会場では、障害福祉事業所・団体が手がける個性豊かな屋台と、魅力的なスタートアップ・医療機関のマッチングブースが集いました。ここでは、美味しいフードとドリンクを楽しみながら、メイン会場で行われた「魅力発信ピッチ」に登壇したスタートアップや医療機関の方々と直接交流を通じて「つながる(ノットする)」ことを目的としています。本記事ではイベント当日のコミュニケーション会場の様子をレポートします。
イベント概要 <コミュニケーション会場>
Healthcare Venture KNOT 2024
開催日時:11月23日 12:00~17:00
会場:コングレスクエア日本橋
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所 presented by 東京ウェルネスインパクトファンド
▼ 会場マップ
▼ 出店屋台
・おすしでえがお|寿司
・久遠チョコレート神戸|チョコレート
・方南町ローカルグッドブリュワーズ|クラフトビール
・ITAYA Farm|ワイン
・ワンライフ|トマトジュース
・HIRAKU Group, Many cacaos Many minds|チョコレート、クッキー
・栗こま娘本舗亀屋|骨こつ娘まんじゅう
・ココ・ファーム・ワイナリー|ワイン
・ジョブ・サポート・プラザちよだ|ビーフカレーパン
・ふくろう珈琲|コーヒー
▼ 魅力発信ブース
・アイリス株式会社
・株式会社Rehab for JAPAN
・株式会社do.Sukasu
・藤田医科大学 総合診療プログラム
・一般財団法人ひふみ会 まちだ丘の上病院
・TEAM BLUE(やまと診療所/おうちにかえろう病院)
福祉×食の豊かな世界
メイン会場からコミュニケーション会場へと続くスペースには、魅力的な屋台が軒を連ねています。
NPO法人「おすしでえがお」は、児童養護施設の子どもたちの食育を目的に活動を展開しています。普段は銀座で腕を振るう寿司職人が、想いを込めた太巻きと玉子焼きを提供し、その取り組みに多くの来場者からは感嘆の声が上がっていました。
その隣の屋台、千代田区立障害者就労支援施設「ジョブ・サポート・プラザちよだ」では、評判のビーフカレーパンの看板が目を惹きます。「はたらくを通じて、人とひと、人と社会をつなげ絆社会を実現する」というミッションのもと、約30名の障害者の方々が働く同施設。ビーフカレーパンを介して、自然と来場者同士の会話が生まれていました。
コミュニケーション会場入り口には、ドリンクやフードを提供する屋台があり、さまざまな商品が並んでいました。
「前から気になっていたんです」。作業療法士の方が代表を務めるITAYA Farmのワインを手に、来場者が嬉しそうに感想を語ります。千里浜海岸から200mという立地を活かし、2020年から耕作放棄地を開墾してワイン用ぶどうの栽培を始めた同園。ほのかな塩味とミネラルを感じる「海のワイン」は、「障がい者が活躍するワイナリー」という新しい可能性を示していました。
方南町ローカルグッドブリュワーズのブースには、カラフルなラベルのクラフトビールが並びます。「専門的な技術や知識が必要な醸造は、障がいがあっても挑戦してみたい魅力的な仕事でした」。そんな醸造士たちの言葉に、来場者が共感していました。
ソーシャルグッドフード&ドリンクが示す多彩な可能性
会場内の屋台には、さらに多くの魅力的な商品が並びます。神戸市で医療・介護・障害福祉を展開する株式会社PLASTが運営する「久遠チョコレート神戸」は、チョコレート製造のみならず、チャリティ古着や障害者アートなど、多様な就労機会を創出しています。
今回のイベントロゴをデザインしてくれた「神戸フォント」も、PLASTが運営する福祉事業所です。神戸フォントは、神戸市の障害のある方々とデザイナー・学生が協働して制作する、文字やイラストのグラフィックデータです。PLASTを中心に、神戸市内の福祉事業所やデザイナーと連携しながら運営されています。「神戸フォントが神戸のあちこちで当たり前にある」というビジョンのもと、多様な人々が共生する街づくりを目指しています。
「ワンライフ」のブースでは、糖度8〜13という贅沢なフルーツトマトを使用した無添加ジュース「tomatoma」を提供。トマト嫌いな子どもでも美味しく飲める工夫が施されています。
奈良のビーントゥバーチョコレートショップ「Many Cacaos Many Minds」は、HIRAKU Groupによる障害福祉サービスの実証実験拠点としても機能。カカオ豆の選定から製造まで一貫した工程を通じて、持続可能な雇用のあり方を追求しています。
医療と食の融合という点では、武蔵台病院と栗こま娘本舗亀屋が共同開発した栄養機能食品「クリームチーズまんじゅう 骨こつ娘」が注目を集めています。きくらげの粉末を使用し、カルシウム吸収を促進するビタミンDを効果的に摂取できる工夫が特徴です。
就労継続支援B型事業所として、「働きやすい職場」「学び続けられる環境」「高水準の工賃」を大切にする「ふくろう珈琲」も出展。世界中から厳選したスペシャルティコーヒーの豆を使用する同店の取り組みについて、来場者との間で活発な意見交換が行われていました。
ワインの専門性を追求する「ココ・ファーム・ワイナリー」は、知的障害を持つ方々をはじめ、すべての人がいきいきと活躍できる場を目指します。スパークリングから赤ワイン、デザートワインまで、ぶどう本来の味わいを大切にした醸造に取り組んでいます。会場では、ジュースと白ワインが提供されました。
イノベーションを育む対話の場
飲食スペースに隣接する魅力発信ブースには、未来の医療を形づくるさまざまな取り組みが並びました。
まちだ丘の上病院は地域の医療・福祉をつなぐコミュニティ拠点「ヨリドコ小野路宿」の実践を紹介。その革新的なアプローチに、多くのビジネスパーソンや医療・介護・福祉従事者が関心を寄せていました。
隣接するdo.Sukasu社は、視覚認知力の評価とトレーニングを通じて、高齢化社会における健康寿命と運転寿命の延伸に挑戦しています。ブースでは製品の体験も実施していました。
TEAM BLUE(やまと診療所/おうちにかえろう病院)は、在宅医療を通じて「自分らしく生きる喜び」と「人が人を想う温かさ」を伝える取り組みについて、熱心に来場者と対話を重ねていました。
アイリス株式会社は「みんなで共創できる、ひらかれた医療をつくる。」をミッションに、AI技術を活用した感染症判定医療機器を紹介。
藤田医科大学総合診療プログラムは「いつでもどこでも誰でもが総合診療医にアクセスできる世界」の実現に向けて構想を掲げています。
作業療法士の方が立ち上げたRehab for JAPANは、「介護に関わるすべての人に夢と感動を」というビジョンのもと、エビデンスに基づいた科学的介護の実現を目指しています。ブースではAI動作分析ソフトの体験も実施していました。
コミュニケーション会場全体では、美味しいフードとドリンクを手に、普段は接点の少ない異なる立場の人々が自然と対話を始める光景が印象的でした。現場の医療者が介護職員とケアのあり方について意見を交わし、スタートアップのエンジニアが医療者と新しいサービスのアイデアを話し合う。企業の経営者が、医師の夢に熱心に耳を傾ける様子も見られました。
ある来場者は「最初は初めての方と話が弾むか不安でしたが、飲食を介して、ブースの担当者さんから気軽に声をかけていただいて、緊張がほぐれていきました」と嬉しそうに語っていました。
障害福祉事業所・団体による質の高い食品製造、医療機関による地域に根ざした取り組み、そしてテクノロジーを活用した革新的なサービス。これらが一堂に会し、互いに刺激し合い、熱気に満ちあふれる場となりました。
撮影=兼子 真太
取材・文=白石 弓夏