スタートアップ、病院による「魅力発信ピッチ」、医師芸人のコントで会場の熱気は最高潮に!「Healthcare Venture KNOT 2024」レポート

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スタートアップ、病院による「魅力発信ピッチ」、医師芸人のコントで会場の熱気は最高潮に!「Healthcare Venture KNOT 2024」レポート


「Healthcare Venture KNOT 2024」、今年のテーマは「みんなで作る、みんなが作るノットの場」。会場は約400名が集まり、満席に。

イベントの前半は、いま注目のヘルスケアスタートアップ企業3社と4医療機関がそれぞれの医療にかける想いやユニークな取り組みを発信する「魅力発信ピッチ」に登壇。普段なかなか聞けない話の数々に参加者のみなさんが興味深く耳を傾けました。

続いてお待ちかねのセッションは、昨年に引き続き、医師芸人しゅんしゅんクリニックPの登場です。今回は、77歳の芸人であるおばあちゃんとともに傑作漫才を披露。会場は笑いと熱気に包まれました。

本記事では当日のイベントの様子をレポートします。

イベント概要/タイムテーブル

Healthcare Venture KNOT 2024
開催日時:
11月23日(土) 12:00~17:00
 12:00 開会
 12:15 魅力発信ピッチ <スタートアップ部門>
 13:00 魅力発信ピッチ <病院部門>
 14:00 医師芸人しゅんしゅんクリニックPとおばあちゃん芸人、おばあちゃんによるコラボセッション
会場:コングレスクエア日本橋
主催:キャピタルメディカ・ベンチャーズ、おうちの診療所 presented by 東京ウェルネスインパクトファンド

▼ 会場マップ


魅力発信ピッチ <スタートアップ部門> 

介護×テクノロジー、AI医療機器、調剤薬局DX領域の話題のスタートアップ企業3社が自社の魅力を語り尽くします。ヘルスケアスタートアップ業界を牽引するリーダーたちが語る、熱い思いとは?


あきらめなくていい、「年を重ねることが楽しみになる」社会の創造を
株式会社Rehab for JAPAN 取締役副社長 池上晋介氏

トップバッターを務めたのは、設立9年目の介護×テクノロジー企業、株式会社Rehab for JAPANの取締役副社長COO、池上晋介氏。

これまでの介護の社会システムは、要介護状態になった高齢者にとって、自分らしくいられるサービスの選択肢が圧倒的に足りない。今、時代は介護においてもアウトカムに対してお金を支払うこと、高齢者の体験の価値、医療従事者の価値を再評価する「バリューベースの治療と支援」にシフトしていることを池上氏は解説します。

Rehab for JAPANが行う保険外のオンラインリハビリ事業「Rehab Studio」。老人ホームなどに提供する集団リハビリと自宅でできる個別リハビリの2種類からなり、「ただ動画を流すのではなく、リアルタイムに双方向でコミュニケーションができるプログラムです。リハビリ専門職がサービス提供することで、専門性、個別性を担保します」と池上氏は紹介しました。

要支援2で杖をつきながら生活していた80代女性が利用開始1カ月で杖なしで片道20分の買い物に行けるようになったことや、パーキンソン病の70代男性が4年ぶりに友人とギターコンサートを開催できたといった事例紹介とともに、QOLスコアの向上、ADLスコアの向上、認知機能のスコア向上といったアウトカムも示しました。

「介護保険、医療保険だけでは限界があります。足りていない部分を埋め、やりたいことが実現できる、たくさんの選択肢を増やすことがこれからの社会には必要です」と池上氏は熱くアピールしました。


医師でもあり起業家でもある私だから目指す「その人の人生を充実させる医療」とは
アイリス株式会社 代表取締役 沖山翔氏

続いてステージ上に立ったのはアイリス株式会社代表取締役の沖山翔氏。

2022年にインフルエンザウイルス感染症診断補助AI医療機器「nodoca®」が日本初(※1)のAI搭載「新医療機器(※2)」として承認を取得、現在nodocaは全国の二千以上の医療機関で導入されています。2023年には、米ペガサス・テック・ベンチャーズが主催する世界最大級のグローバルピッチコンテスト・カンファレンス「スタートアップワールドカップ2023」世界大会で優勝を勝ち取りました。

※1:PMDAが公開する令和3年度〜平成23年度の新医療機器の一覧及び令和4年度の承認医療機器を確認した情報 (2022年5月9日時点)
※2: 平成26年11月20日 薬食発1120第5号が定める定義

「今日は僕の生き方、キャリアを紹介したいと思います。実は将来起業をするなどという考えは1ミリもなく、一生病院で勤め上げようと思っていたのです」と沖山氏はその経歴を語りはじめます。

東京都渋谷区の病院で救急医として働いて感じたのは、充実の医療設備や患者の医療リテラシーの高さ。しかし日本全国がそういうわけではないはず、医療のことをもっと理解したいと思い、石垣島や波照間島などの離島で離島医、船医としても経験を重ねます。「この期間の最大の収穫は、自分はどうやって生きよう、と考える時間を持てたこと。時間に余裕がないと長期的視野を持てない、ということを身にしみて感じました」

過疎地域の医療の経験から「医療格差をなくしたい。この時代ならAI」という発想に至った沖山氏。その後、メドレーでオンライン医療事典事業に携わり、その前の1年間はなんと全国100病院の現場を回ったといいます。

「産業医、学校検診、訪問医療、老人ホーム、精神病院などで働きました。医療現場のリアルを感じ、見いだしたのは人生が豊かになること、後悔しない生き方をしたいということです。病気を治すだけが医療ではなく、その方の人生を充実させるのが医療だ、というのが自分なりの解釈です。そのために私は、テクノロジーや技術を使って課題解決をしたいと思っています」と締めくくりました。


薬局DXを起点に、日本の医療課題に広く貢献してい
株式会社カケハシ 中川貴史氏

「我々は、薬局のDXをきっかけに、日本の医療全体が抱えるエコシステムの課題にアプローチしたいと思い創業したスタートアップです」と株式会社カケハシの中川貴史氏は話し始めました。

現在、全国の薬局約6万店舗中、20%以上の薬局がカケハシで開発・提供されているプロダクトを採用し、薬局の医療インフラとして定着しているといいます。

服薬指導体験の向上と業務効率化を支援するクラウド型電子薬歴サービス「Musubi」により、薬剤師が日々取り組む薬歴作成時間の70%削減に成功。「薬剤師は患者さんと向き合う時間を作ることができます」と強調しました。

また、患者フォローシステム「Pocket Musubi」では、患者さんに合わせた質問が自動送付され、その回答から副作用の発生など服薬に課題のある患者の抽出と薬剤師によるフォローが可能になります。さらに、とある薬物治療において、MusubiやPocket Musubiを活用した薬剤師の関わりにより、平均治療継続率が2〜3倍になったという事例も示されました。

これらの取り組みを起点として実現したいのは「患者や薬局の基盤をもとにさらに医療に貢献していくこと」と中川氏。サービスに蓄積される年間2,500万人の患者データを活用しながら、治療継続率を高めて重症化を防ぐだけでなく、AIによる在庫最適化で医療品の供給不足の解決を目指します。最後に、「日本の医療に広く貢献していきます」と宣言しました。


魅力発信ピッチ <医療機関>

休憩時間を挟み、メインステージで行われたのは、ユニークな取り組みをしている4つの医療機関が自院の魅力を語り尽くす魅力発信ピッチ。

地域において何が課題になっているのか、また、面白い取り組みによって現場ではどのような変化が起こっているのかをリアルに語ります。


医療の質は人の質。変化対応力を身につけることを重視する
TEAM BLUE代表 安井 佑氏

12年前に看取りに特化した「やまと診療所」を開設後、地域包括ケア病院の「おうちにかえろう。病院」、最後まで自宅で食べ続けることを支援する「ごはんが食べたい。歯科クリニック」を開設。これら3つの事業体を合わせた呼び名が「TEAM BLUE」。

代表の安井 佑氏は、「在宅医療においては医者と患者に主従の逆転が起きます」と言います。医療機関においては医療者が正しい医療を患者に提供し患者のアウトカムを最大化することが重要。「一方、在宅医療、特に終末期医療では、我々が患者さん宅にお伺いして彼らがどういう体験をし最後を迎えられるか、見送る家族にとってこのお別れがどういう経験になるかという体験を豊かにすることがミッションとなります。終末期医療において正しい医療を行使することの寄与割合は2割か3割になると考えています」と話します。

これまで12年間力を注いできたのは「医療の質は人の質」という考えのもと、全ての医療者が「変化対応力」と、「ともに考える力」を身につけること。それが組織としてのレジリエンスにもつながると安井氏は説きます。「この先生に出会えたからいい看取りができた、というのは、医師と患者の組み合わせがたまたま良かっただけという話。私たちは全チームでいい看取りをする。だから感動エピソードは実は全ての患者さんに起こるのです」という言葉が印象的でした。

医療から“はみ出す”ことでウェルビーイングを実現する
一般社団法人地域包括ケア研究所代表理事・まちだ丘の上病院理事長 藤井雅巳氏、家庭医・まちだ丘の上病院在宅地域部門部長 在原房子氏

東京都町田市の里山にある小さな病院、まちだ丘の上病院は、かつて巨額の赤字を抱えていましたが、1年半で黒字化を達成した病院です。投資ファンドで病院の再生を行っていたという前歴を持つまちだ丘の上病院理事長 藤井雅巳氏と、家庭医の在原房子氏が登壇しました。

まちだ丘の上病院、障がい者療育施設「一二三学園」、「ヨリドコ小野路宿」の3事業からなる、まちだ丘の上病院。利用者、患者、スタッフも含めて「地域の人々を支える」というミッションを実現するために、「はみだす」という発想を取り入れた、と藤井氏は話します。

2020年にオープンしたのが訪問看護リハビリステーションヨリドコ。敷地内には訪問看護ステーション事業所だけでなく畑や倉、竹林、地域の集会所やカフェなどがあり、昨年度はこの場になんと1万人以上が来訪したそう。「ワークショップ、畑の整備、竹林の整備などいろいろな活動が自然発生的に起こっている現象を赴任して1年半見てきました。この場にある『やりたいことができる、誰もが役割を持つことができるという力を活かす仕組み』が作用した結果、病気や健康と向き合う医療からはみだしたウェルビーイング、つまり孤独ではない、つながりがある、やりがいがあるといったことが実現されているのだと思います」と在原氏は話します。

取り組みが注目された結果、患者獲得、採用コスト減にもつながっているそう。

「はみ出した医療は実ははみ出していなくて、これからの世の中のど真ん中になる、経営的にも成り立つものになっていく」という藤井氏の言葉が力強く響きました。


就職先も受診先も、SNSで選ぶ時代に
湘南藤沢徳洲会病院マーケティング課主任 町田詩織氏

まっちー@病院広報として病院公式SNSの運営、採用広報、メディア対応、職業体験の他、医療メディアで連載も執筆している、湘南藤沢徳洲会病院マーケティング課主任の町田詩織氏。「マーケティング課という部署名のある病院はかなり珍しいのではないかと思います」と言います。

「就職先も受診先もSNSで選ぶ時代が始まっていると当院は考え、早くからSNSを運用してきました。また、職員がその価値を理解し、みんなが協力して登場してくれています」と町田氏。

運用3年でフォロワー数は1万人超え。SNSをきっかけとして、パリオリンピック体操男子金メダル選手の所属する徳洲会体操クラブ、地域のプロスポーツチームとのコラボも実現。地域活性化のために地元キッチンカーを招致し、職員全体が都合のいい時間に参加できるキッチンカーイベントなどを開催しています。

設立51周年となる徳洲会は創業者から受け継ぐ「救急を断らない」というポリシーを大切にし、離島や僻地に19病院(離島10、僻地9)を開設、都心の医師を飛行機で運ぶ、災害地に医療スタッフを派遣する災害医療活動「TMAT」などの活動についても紹介されました。


総合診療を日本全国のインフラに。藤田総診の挑戦
藤田医科大学 総合診療プログラム 毛利公亮氏(藤田医科大学 総合診療プログラム 専攻医2年目)、山田智也氏(藤田医科大学 総合診療プログラム 専攻医3年目チーフレジデント)

魅力発信ピッチの最後を飾るのは、藤田医科大学 総合診療プログラムの若き医師、毛利公亮氏と山田智也氏。前半は毛利氏が「なぜ日本に総合診療医が必要か」、後半は山田氏が「総合診療医を増やすための当院の取り組み」について発表しました。

体調を崩して病院に行こうとしても、どの診療科にかかればいいのかわからない、そんなときに診断とともに適切な専門科につなぐのが総合診療医の仕事。欧米諸国では50年前から総合診療医を育成してきた一方、わが国では医師のうち総合診療医が占める割合はわずか0.3%という現状があります。2018年から総合診療専門プログラムの施策が始まり、少しずつ医師が増えてはいるもののまだまだ道半ば。高齢化が進み、一人がいろいろな病気を併せ持つことから総合診療医のニーズは今後も高まることが予想されます。

藤田総診では卓越した能力を持つ若手の総合診療医を育てるため、週1回の「レジデントデー」を作り、半日かけて勉強に集中する、という教育プログラムを実施。オンライン説明会やSNS発信でリクルート活動も行っているそうです。「一緒に働いてくれる人を探しています!」という呼びかけとともに発表は終了しました。


医師芸人しゅんしゅんクリニックP・おばあちゃん芸人、おばあちゃんによるコラボセッション

続いて登場したのが、昨年に引き続き連続出場の医師芸人しゅんしゅんクリニックPさん。群馬大学を卒業し医師免許を取得、6年間の研修医生活を経て吉本興業の養成所に入り、現在、芸人と医師というハイブリッドな仕事をしているしゅんPさん。今回は77歳のピン芸人、その名も「おばあちゃん」とともに登場してくれました。


まずはしゅんPさんが軽快な足取りで登場。拍手が鳴り止みません!

「今日は医療職の方もたくさんいらっしゃるということで、理学療法士さんはー?」としゅんPさんが問いかけるとたくさん手が挙がり、「PTさん歩いてる人の歩行分析、やりがち」でつかみはOK! 拍手とともに一発医療ギャグの「シュッ」を全員で練習した後は、リズムネタ「ヘイヘイドクター」へ。

医師ならではの医療機関あるあるネタを歌とダンスで披露し、会場のみなさんに振り付け指導も。「盛り上がれるし、体もほぐれていい感じなので、ぜひPTさんリハで使ってほしいなと思います!」と呼びかけました。


続いて登場したのが、77歳の芸人「おばあちゃん」。真っ赤なジャケットで颯爽と壇上に上がります。


「77歳後期高齢者、でも芸歴まだ6年目の若手芸人です。今日はシルバー川柳でみなさまにお話したいと思います」

後期高齢者のあるあるを呟いた後に、ここで一句、と披露されたのは「朝起きて今日も元気だ医者通い」などの川柳。川柳と川柳の間にはさまれる、おばあちゃんの「つぎ」というハリのある声がなんだかやみつきになりそうでした。



そして最後にしゅんPさんとおばあちゃんが二人でコンビ漫才を披露してくれました。

しゅんPは芸歴14年、おばあちゃんは5年目、「僕は先輩なんだけどいつもおごってる」「はい、たかるの専門です」と息もぴったりの2人。

「最近の若い先生の態度が悪い」というおばあちゃんのぼやきから、しゅんPさんが患者役、おばあちゃんが医者役となり、最後は「このクソババア!」「ヤブ医者!」と言い合いになるというドタバタ展開のあと、「医者と患者さん、信頼しあうことが大事ですね」で漫才は終了。誰もが思い当たる医療ネタと、2人の年齢差が醸し出すなんともいえないほほえましい味わい……もっとこのコンビのネタが見たくなりました。

 

スタートアップ企業、病院がそれぞれの課題に柔軟な発想で突き進む姿勢を見せてくれた「魅力発信ピッチ」、そして医療ネタってこんなに切り口が多いんだ、と感心させられたしゅんPさんと健康寿命の延伸のロールモデルともいえるおばあちゃんのコラボ漫才の盛り上がりは、まさに“医療フェス”。楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。

Text:柳本 操
photo:小久保 克海